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メンバー vol.10 – 楽曲キーの分析と変遷

コラム

8月8日のLive Blu-ray/DVD『TOUR 2017-2018 PATHFINDER SAITAMA SUPER ARENA』リリースが楽しみな管理人です。今回はBUMP OF CHICKENを「楽曲のキー」という視点から分析してみました。



説明:キーとは

embed from ギター演奏の小楽典

 

調(キー)
調(ちょう、key)は音楽用語の一つ。メロディーや和音が、中心音(tonal centre)と関連付けられつつ構成されているとき、その音楽は調性(tonality)があるという。伝統的な西洋音楽において、調性のある音組織を調と呼ぶ
wikipedia 調 より

全ての曲には固有のキー(調)が存在します。キーとは(とて〜も平たく言い換えると)楽曲の音階の中心がどこにあるかということです。曲の始まりから終わりまで1つの調で終えることが多いですが、曲の途中で調が変わることを”転調”といったりします。

結論:概要

後述する各時代の分析をまとめました。

結成〜インディーズ期 (1994-2000)
FLAMEVEIN期はD♭が主体、THE LIVING DEADでは転調を多用し全体的にキーのバランスが取れている。(しかし当時は未発表曲が多数あると考えられ、一概に論じることはできない)

jupiter-ユグドラシル-orbital period期 (2000-2008)
G♭時代。実に3曲に1曲以上がGキーで書かれている。ダイヤモンド、スノースマイル、車輪の唄、プラネタリウム、カルマ、涙のふるさと、花の名等殆どのシングル曲がGキーである。

COSMONAUT-RAY-Butterflies期 (2008-2016)
C♭時代。jup-ygg-op期に7~10曲に1曲程度だったC♭キーが、3曲に1曲の割合に増加。半音下げ<GonF>や<FonG>などのコードの使用によりC♭キーのコードワークが豊かになった。またJUP-YGG-OP期には減少した転調も復活。

20周年記念Special Live「20」〜PATHFINDER期(仮) (2016-2018年現在)
新しいキーの時代。(半音下げチューニングにおける)A#キーの使用は活動開始22年間で初。またライブでのキー変更(ベル:G♭→E♭、涙のふるさと:G♭→F♭)などこれまでになかった取り組みが行われている。

補足:計算ルール

  1. サビで転調する場合はA-Bメロとサビを0.5曲ずつカウント。Cメロ1回のみの場合はアクセント要素が強いので0.1曲、基本キーを0.9曲として算入。Bメロ転調などは使用時間の長さを考慮して調整して算入(例:才悩人応援歌 B 0.2曲、D 0.8曲)。
  2. 彼女と星の椅子(1997年)、プレゼント(2000年)、バイバイサンキュー(は作曲時期を基準に算入。再録曲(エバラスアコギ、スノスマ ringing、ガラブル28)は非算入、
  3. BUMP OF CHICKENは半音下げチューニングが基本のため、便宜的にF#(♭)、A#(♭)などの記述をしている(意味は半音下げチューニングにおけるF#キー、A#キー)。

また時代区分は、キーの変遷などを考慮して主観的にみて区切りの良い時代で分けています。それでは各時代のキーを見てみましょう。



結成〜インディーズ期

  C♭   6 彼女と星の椅子(原曲)、曲名不明、ノーヒットノーラン、Grown Up Person など
  D♭ 6.5 ガラブル、リトルブレイバー、とっておきの唄、Hong Kong Star (Bm)など
  E♭   4 ナイフ、alone、BOCのテーマ
  F♭ 0.6 Ever lasting lie、BOCのテーマ(大サビ)
  G♭ 6.9 くだらない唄、18 years story、Day Dream Believer、プレゼント*など
  B♭   0
  A♭   5 DANNY、ポケットロック、トランスライフなど

※OpeningとEndingはプレゼントとして1曲換算。

総じてバランスのとれた時代と言えます。FLAME VEIN時代(1999年夏には記録されているバトルクライ含めて)8曲のうち4曲がDキーと偏っているといえますが、当時は英語詞曲も披露しており、それらを踏まえると必ずしもDに傾倒していた訳ではありません。

THE LIVING DEAD時代は藤原さんが転調にハマっていた影響があり、全体的にバランスよくキーが散らばっているといえます。

jupiter 〜 orbital period期

  C♭ 5 オンリーロンリーグローリー、arrows、voyager&flyby*など
  D♭ 8.3 天体観測、ハルジオン、ロストマンなど
  E♭ 8 fire sign、stage of the ground、ホリデイ、sailing day、ひとりごとなど
  F♭ 0.5 飴玉の唄(A〜Bメロ)
  G♭ 16 車輪の唄、プラネタリウム、カルマ、涙のふるさと、ベル、ダイヤモンドなど
  B♭ 0.2 才悩人応援歌(Bメロの一部)
  A♭ 4 真っ赤、supernova、ベンチとコーヒー、乗車権など
  A 2 embrace、ハンマーソングと痛みの塔

※embraceとハンマーソングと痛みの塔はレギュラーチューニング、voyagerとflybyは1曲と換算。星の鳥はメーデーのリフの延長線上のため非算入。

Gに傾倒している時代です。36%と書くと大したことないように見えますが、割合で言えば3曲に1曲以上がGキーで書かれている(計16曲)のに対し、AキーやCキーは7~10曲に1曲程度です。

特徴:キーの構成音の保持

初期のGキー(くだらない唄、ベルなど)ではGキーに対する4度はCコード[x32010]で演奏されていますが、ユグドラシル〜orbital period期ではCadd9[x3x033]が多用されています。1弦2弦の3フレットを押さえっぱなしにして Am[x02033] や GonB[x2x033] を弾いても通奏のようにキーを支えてくれるのでよりサウンドがキー寄り(聴きやすく)になる効果があります。orbital period期からはDキーでのDonG [3x023x]、Em7 [02x03x]、Asus4 [x0223x]が使用されています。

jupiter初期(天体観測、ハルジオン、メロディーフラッグ)ではDの曲が多く書かれています。また才悩人応援歌では初めてBキーがBメロで転調で登場します。またembrace、ハンマーソングと痛みの塔はレギュラーAで録音されていますが、ライブでは半音下げチューニングのままで演奏されています(恥ずかし島embraceはレギュラーチューニング)。

 

COSMONAUT〜Butterflies期

  C♭ 16.6 モーターサイクル、ゼロ(Am)、グッドラック、セントエルモの火、GOなど
  D♭ 8 R.I.P.、(please) forgive、トーチ、ラストワンなど
  D 1 三ツ星カルテット
  E♭ 5.9 分別奮闘記、ray、サザンクロス、虹を待つ人など
  F#(♭) 1 smile
  G♭ 9.1 Merry Christmas、宇宙飛行士への手紙、キャラバン、good friendsなど
  B♭ 0
  A♭ 3.4 友達の唄、歩く幽霊、HAPPY、angel fallなど
  A 1 66号線*

Cに傾倒する時代です。3曲に1曲以上(計16曲以上)でCキーが使用されています。ユグドラシル時代ではカップリング含めて6% (1曲)しかなかったCキーですが、COSMONAUT時代は47% (8.5曲)も使用されています。RAY、ButterfliesでもCキーが多く使用されています。

 

キーとは別の話になりますが、藤原さんはCコードを”嫌いなコード”として2005年のラジオ(ASIAN KUNG-FU GENERATION vo.後藤正文との対談)のなかで自らギターを弾きながら言及しています。

 

藤原 – 好きなコードっていうか、逆に嫌いなコードがあって、Cなんだけど。なんでこんな甘いのっていうか、偽善者っぽいっていうか

2005.06.22 TOKYO FM – MOTHER MUSIC RECORDS Over Drive – 

 

藤原さんはバレーコードがあまり好きではありません。F、G(2弦開放)を使うシンプルなコードワーク中心となるCキーには興味が薄いのだと見受けられます。しかし隠し曲の「new world サミット」で GonF [1x000x] というコードを使用してから、FonG [3x321x]などの表現の幅が広がり、使用機会が増えるようになります。そういった意味では(前からずっと言いたかったのですが、やっと言える!)「new world サミット」はすごく藤原さんの楽曲変遷を語る上でとても重要な曲なのです。

 

66号線は、ライブで初めてレギュラーチューニングで演奏されました。またsmileでは初めて半音下げF#(半音下げ2カポEフォーム)が使用されるなど、jupiter〜orbital period期と比較して明らかに藤原さんの声域に変化があったことが読み取れます。

Special Live「20」〜現在

  C♭ 2.5 アンサー、望遠のマーチ、シリウス(サビとイントロの一部)
  D♭ 0
  E♭ 1 アリア
  F♭ 0
  G♭ 2 Spica、リボン、流れ星の正体(サビ)
  B♭ 0
  A♭ 1.5 シリウス(イントロ〜Bメロ)、記念撮影*
  A#(♭) 1  流れ星の正体(Aメロ)、リボン(大サビ)

※記念撮影は増川は半音下げ3カポ(A#キー)、藤原・直井はレギュラーチューニングで演奏している

流れ星の正体、リボンで初めてA#キー(半音下げチューニング)が弾かれるようになります。「embrace、ハンマーソングと痛みの塔、66号線はAキー(全音)では?」と思われた方、鋭いです。楽典的音階的には半音下げA#と全音Aは同音階です。しかしギター奏者にとっては半音下げチューニングA#と全音チューニングAは決定的に異なります。 藤原さんは(半音下げ)Gキーの転調先、転調元として(半音下げ)A#を使用しておりいるのです。平たくいえば、藤原さんの表現が一段引き出しが増えたといえます。



新しいキーへの考え方

2020年12月レコーディングをする藤原 画像引用:Twitter@boc_official_

ライブでのキー変更

2016年2月11日に行われた20周年記念Special Live「20」では初めての取り組みがありました。原曲ではG♭キーだった「ベル」がこの日はE♭で演奏されました。また2017-2018年に行われたツアーPATHFINDERでは「涙のふるさと」のキーも変更されています。

キー変更
ベル:G♭→E♭
涙のふるさと:G♭→F♭

人間の声帯も加齢とともに変化するのでしょうか、原曲キーでは歌えなくなっているようです。逆にキーが変化することでメロ替え(涙のふるさと)も行われたりして、曲の表情が豊かになったと考えることもできます。

尚、1999年のアコースティックライブや2012〜2014年のサブステージ(恥ずかし島)でのチューニング変更は原曲半音下げで統一されており、意味合いが異なるので説明は省略します。

謎のチューニング方法

2017年に開催された全国ツアーPATHFINDERでは謎のチューニング方法が判明します。

記念撮影
藤原:レギュラーチューニング
増川:半音下げチューニング(3カポ)
直井:レギュラーチューニング

涙のふるさと
藤原:半音下げチューニング(3カポ)
増川:レギュラーチューニング(2カポ)
直井:レギュラーチューニング

今までのライブでは藤原さん、増川さんのチューニングは統一されていました。しかしPATHFINDERでは藤原さんと増川さんのチューニングが異なります。カポタストのセッティングの問題、使用ギターの曲間の変更の問題、弦のテンションの問題、ポジションマークの問題などいくつかの理由が考えられますが詳細は不明です。

明確に言えることは、今までなかったことがPATHFINDERで起きたという事実です。個人的にはその事象だけで、BUMP OF CHICKENが新しいステージに突入したんだなと思います。

 

まとめ

概要としては記事のはじめに書いた通りです。BUMP OF CHICKENの楽曲や作曲方法の推移を考えながら、曲を聴いてみると新しい聴こえ方ができるのかなと思います。

元々すごーく長い記事だったのですが、概要編としてなるべく簡潔に書いたつもりです。(各アルバムごとに詳説編も書きましたが長すぎてお蔵入りにしました。笑)ご拝読ありがとうございました!