2020年初頭、大手オークションサイト「Yahoo!オークション」にBUMP OF CHICKEN「リリィ」のデモテープが出品されました。
これまでのBUMP OF CHICKENのデモテープとは異なり、おそらく初めて世に出た「リリィ」のデモテープです。
それではテープは本物なのか、偽物なのか検証してみます。
BUMP OF CHICKENの「リリィ」
「リリィ」はBUMP OF CHICKENの「THE LIVING DEAD」収録曲です。ボーカル・ギター藤原基央さんがインディーズ時代に書いた私小説的ラブソングとして有名な楽曲です。
ハイライン版「THE LIVING DEAD」 (2000年)
「リリィ」の制作背景やエピソードはこちら!
オークションに出品されたもの
キャッシュデータより直接引用
オークションサイト | Yahoo!オークション |
出品開始 | 2019年12月頃〜 |
出品終了 | 2020年2月16日 |
このテープの真贋を検証するために以下に論点をまとめました。
検証の論点
デモテープについて
1. TOY’S FACTORYのカセットテープは本物
2. 音源は「THE LIVING DEAD」収録のものと同じ(と思われる)
3. 記載情報は曲名とバンド名のみ
出品者の方について
4. 出品者はプロフェッショナルな中古販売業者
それでは各項目ごとに説明していきたいと思います。
1. TOY’S FACTORYのデモテープ
カセットテープ本体の左下に印字されている電話番号は当時の代表・総務受付番号で整合性があります。
「リリィ」デモテープ Embedded image from Yahoo!オークション
比較対象としてMr. Childrenのデモテープを見てみましょう。「Side A/B」(左側)「NOT FOR SALE」(右側)の印字が同一で、カセットテープ自体は本物だと考えられます。
Mr. Children「花 – Mement Mori-」デモテープ。タイトル・バンド名の記載がある。Embedded image from Mercari.jp
ただし疑問としては、当時ハイラインレコーズが権利を持っていた楽曲をトイズファクトリーのロゴ付きデモテープに収録されているというのは不自然です。
2. 記載情報は曲名・バンド名のみ
ケースには「BUMP OF CHICKEN」と「リリィ」のみ、テープには収録内容に関する記載は一切ありません。
外部(音楽雑誌やCD販売店)に配布する資料の場合、通常はリリース日、収録作品名、品番などの詳細な情報が入っています。ラジオ・テレビ局に配布するサンプル版も同様で必ず記載されています。
「jupiter」配布デモテープ。社外配布用には発売日や型番等が記載される。 embedded image from Mercari.jp
「リリィ」のデモテープが真作である場合、(1.で書いた通り)他社が権利を持つ楽曲をトイズファクトリーのロゴを記載して外部提供するということは考えられないため、社内資料として作られたかなと思いました。
裏を返せば、作り込みが陳腐とも言えるので単に偽物である可能性もあります。仮に社内資料であれば「THE LIVING DEAD」のCDがあるのになぜテープに作った?という疑問。
3. 収録音源は「リリィ」1曲
出品者が「リリィが問題なく再生できる」と答えていること、そしてこの出品者がBUMP OF CHICKEN専門のせどり屋ではないことから、おそらくCD音源(「THE LIVING DEAD」)と比較したと考えられ、未発表のデモテイクなどではないと推測されます。
デモテイクの段階であれば簡易なラベリングも理解できますが、流通しているCD音源と同じとなるとなぜこのテープが作られたのか、という目的に謎が残ります。
4. 出品者はコレクション専門のせどり屋
出品者は完全なせどり屋です。総取引数5300件以上、現時点の出品数は3000件にのぼります。独自の仕入ルートを持つ専門的に中古品販売を行う業者です。
通常この規模のせどり屋は偽物を作成しません、本物だけで利益が出るからです。5000件を超える取引評価は非常に高く、安易に贋作を作るような致命的なリスクは負わないと思います。
一方、出品している他のデモテープの価格は2,000~5,000円であり、「リリィ」のデモテープの価格だけ突出していました。「BUMP OF CHICKENは高く売れる」と認識していたのであれば意図的な値付けの感じはします。
補足:過去に偽物が作られたデモテープも
BUMP OF CHICKENのデモテープは偽物も一部流通しています。「18 years story」「BUMP OF CHICKEN(3曲入りデモテープ)」などは流通量の少なさから真贋判別基準も未熟で、過去に悪質な贋作が作成・販売されました。
「BUMP OF CHICKEN」(左)と「18 years story」(右) のデモテープ
偽物を販売して利益を得るなら、すでに高額(20,000-100,000円)で取引されているテープの偽物を作成する方が合理的であり、TOY’S FACTORYのカセットメディアを使ってまで信憑性の怪しいデモテープを作成することは考えにくい、というのが正直な印象です。
結論:30〜40%の確率で本物
ズルい書き方ですね…!うーん、情報量が少ないのでこれが精一杯です。
本物の根拠として
(1) この業者が贋作のデモテープを作る理由はない
(2) カセットテープ自体は本物(と思われる)
で、偽物の根拠として
(1) 収録内容(選曲、曲数)とケースラベルの情報が不自然
(2) せどり屋に販売した第三者が偽物を作成
要するに「外部に出すにはおかしい、社内資料としても不自然」だけど「この出品者が偽物を作る理由がない」といえます。
個人的には「本物だとしても別に要らないかな」という印象だったのでスルーでした。
デモテープ「リリィ」が作られた目的はなにか?
ここからはデモテープが本物である仮定して書いていきます。
「THE LIVING DEAD」制作をしている頃、トイズファクトリーはBUMP OF CHICKENにメジャー契約のコンタクトを取り始めました。
ーーーではメジャーデビューに関係するデモテープなのか?
その可能性は否定できません。たとえば社内資料として簡易的に制作されたもの、と考えることはできなくもない…か。
ーーー2004年の「THE LIVING DEAD」再販のための資料?
その可能性もありますが、その場合 「なぜ”リリィ”なのか」「なぜ1曲だけなのか」という疑問が残ります。
「BUMP OF CHICKENというバンドをデビューさせたい」「廃盤になるCDを再販したい」という資料であれば完成音源「THE LIVING DEAD」のCD自体を使えば済むはずなので、この真相は関係者のみ知る、というところでしょうか。
以上、「リリィ」のデモテープを検証してみました。もしさらにお詳しい情報をお持ちの方、ご連絡をお待ちしております。