楽曲解説:ハルジオン vol.1 – 天体観測に対する反省から生まれたサウンド

今回はBUMP OF CHICKEN通算4枚目(メジャー3枚目)のシングル曲「ハルジオン」を紹介します。

4th Maxi Single『ハルジオン』(2001年10月17日発売) M-1 ハルジオン / M-2 彼女と星の椅子

前作「天体観測」が50万枚の大ヒットを記録し、BUMP OF CHICKENというバンドが世間に知れ渡った後にリリースされました。この曲は「音の洪水」と「詞」に向き合いって生まれた楽曲です。




ハルジオン制作年表 (2001年)

3月 3rd Single「天体観測」リリース
3-4月 全国ツアー スターポーキングツアーズ2001開催。打ち上げで新曲のサビのメロディをみんなに聴かせる
4月- 新曲のコード進行、歌メロ、オケ制作
新曲タイトルを「ハルジオン」と決める
藤原、ブリキのジョウロの夢を見て作詞
7-9月 全国ツアー surf porkin’ 開催
9月14日 surf porkin’ 大阪BIG CATのアンコールにて初披露

音楽的要素から構築した曲

2001年春、メジャーデビュー後初の全国ツアースターポーキングツアーズ2001を開催します。直前にリリースした天体観測がヒットチャートのランクインし、SPACE SHOWER TVで『BUMP TV』の放送開始などダイヤモンド以前と違う注目度の中でのツアーでした。

ツアー終了後、MCや歌で言いたいことを伝えてきた藤原さんは、言いたいことが明確になく、まずは音楽的な部分から新曲を構築しました。

藤原 – ただ単純に俺は美しいメロディーを1個持っていて、輝いているリフを1個持っていて、今の段階で。で、計り知れない音のうねりがあって。音の洪水の中にいて、俺は。それで、どれも一つ一つが重なってアンサンブルになるもので。なんか、それをちょっとパズルみたいにはめるとこから始まっていったかな。

ROCK’IN ON JAPAN – 2001年10月号

ここで言及されている「輝いているリフ」はAメロ、アウトロ、ライブ版の間奏で弾かれている”ダダダダンッ ダダダダンッ ダダダッ” (D、Dsus4、Dadd9を組み合わせたリフ)のことです。

サビのメロディは春のツアーの時から藤原さんの頭の中にありました。ツアー打ち上げで「新曲歌え!」とスタッフにもてはやされた藤原さんは、その場の席でサビのメロディを歌います。

ハルジオンのコードへのこだわり

そして歌のメロディラインもすぐに構成されましたが、ギターコード(和音)についてはこだわりがありました。

藤原 – 俺は全然、メロを組み立てる段階で苦労はしてないの。俺は鼻歌を歌ってただけなの。で苦労してたのは、和音とか。あ、でも和音も一緒についてきたんだけどね。メロが全部引っ張ってくれたんだけど、結果的には。

ROCK’IN ON JAPAN 2002.10

コード付けに関して藤原さんが言及する珍しい場面です。藤原さんはインタビューで歌詞について言及すること、あるいはサウンドメイキング(コンセプト)について述べることはありますが、”コード付け”について話すことはほとんどありません。

コードの特殊性

ハルジオンには他のバンプの楽曲に見られない特殊なコード進行があります。

Bメロ: Asus4 → A → A7onG → G  

*(以下、半音下げチューニングの前提で記述)

TAB譜に直した場合 [x02230] → [x02220] → [3x002x] → [3x003x]となるコードです。私も音楽理論に詳しくはないのですが、3番目のA7onG [3x002x]というコードはハルジオン以外には登場しないコードです。(補足:キー違い、押さえ方違いでアリアで使用されてる可能性があります)

表記はjupiter公式スコアより引用していますが、実際はA7onGというよりもG(-xx) Gのマイナス何度といった表記の方が正しいと思います。

コード進行のセオリーに適わない、またディミニッシュやセブンスコードでもなく、藤原さん独特のコード進行です。何かを見てこれを引用したというよりも、感覚的に音楽的にこのコードを付けたことがわかります。




天体観測での<音の洪水>を反省したサウンド作り

3rd Maxi Single 『天体観測』。50万枚を売上げ、BUMP OF CHICKENの名を知らしめた1枚


歌詞のない曲のサウンドメイキングが始まります。メンバーの4人が最初に気をつけたことは、天体観測のような<音の洪水>にしないことでした。

天体観測では6本のギターを録音したという重厚なサウンド、多重的なリフのメロディが印象的です。藤原さんはそれを”音の洪水”と表現し、「歌」をもっと伝えるために、必要最低限なサウンドメイキングを意識し始めます。

藤原 – 音符を組み立てていくバンドなんだなって。音符のない空白のところに音符を感じることだってできるし。そういうバンドなんだと思いながらやって。まぁそういう意識っていうのは、ひょっとしたら、”天体観測”以降、徐々に強くなってきたかもしんない。俺、”天体観測”とか音入れすぎちゃって

ROCK’IN ON JAPAN 2002.10

当時出演していたBUMP TVでも同じように答えています。

藤原 – 天体観測はね、歌ってるフレーズいっぱいあったんで、フレーズ自体が歌っちゃってるから重ねると(お互いの音を)逆に殺しちゃったりするから。結果的にはあれもギター入っちゃったけど。ああはしたくなかったんだ。(ハルジオンでは)あんま一杯入れたくなかったの。でもアイデアがいっぱいあって。ひとつひとつが単純なフレーズで。これを入れると、これが死ぬしなっていうアイデアもいっぱいあって。でも全部やっちゃうと天体観測みたいに音の洪水になっちゃうから。それはやだなっていうのがあって。それでもハルジオンも多くなっちゃったんだけど、極力抑えたつもりで。どこが無駄なのかなって探すのが一番大変だったかな。どれも弾いたフレーズは愛情があるから、難しかったですね。

BUMP TV 第18回「ハルジオンについて語る」

藤原さんのすごい点は、大ヒットした天体観測を反省している点です。メジャーデビューしてたった半年でシングルが50万枚も大ヒットしたら、普通天狗になりますよね。「俺が作るサウンドは正しい」「売れた曲のサウンドは正解なんだ」って勘違いする人もいるはずです。当時50万枚ってすごいですよ、本当に。

藤原さんはそんな大ヒット曲に対して自分でダメ出しをします。基準は何枚売れたかではなく、いかに歌を大事にできたか、という点に重点を置いているのです。

ハルジオンは、ユグドラシル以降のバンプの根幹となる<曲の求める姿>を追求する姿勢が明確になる、その芽生えとなります。そういった意味では、天体観測への反省とハルジオンの音作りはバンドを語る上で非常に重要なポイントです。

極限で搔き鳴らした増川のギター

レコーディングでは藤原さんがデモ音源で鳴らしたものを弾いている増川さんですが、藤原さんの理想を再現するためにギターを搔き鳴らしました。

増川 – 単純に、本当に搔き鳴らした、極限で。とりあえず、あいつの頭の中にあるものを全部入れたっていう。でもやっぱ、入れちゃったから聞こえなくなる部分もあったりとかね。それでも入れた。ただただ入れ続けたっていう。

ROCK’IN ON JAPAN 2001.10

jupiter以前の増川さんは比較的雄弁です。藤原さんという絶対的ギタープレイヤーがいる中での立ち位置は難しいと思いますが、当時は4人ともが「俺が!俺が!」の精神だったので(笑)、増川さんもここぞとばかりに話しています。「サウンドメイキングは藤原に任せて、俺はとにかく弾く」という増川さんの立ち位置が垣間見えますね。

さて、長くなったので今回はここまでにします。次回は直井さんと升さんの音作りと歌詞の制作について紹介します。