6th Album 『COSMONAUT』

楽曲解説「モーターサイクル」- いつの間にか忘れてしまうということ

6th Album 『COSMONAUT』

「モーターサイクル」はBUMP OF CHICKENが2010年に発表した通算18枚目のシングル曲です。ギミックの効いたギター、ベース、ドラムのリズムが印象的な楽曲になっています。

ボーカルの藤原基央さんが30歳になってから初めて書いた曲で、”心の中にあった嫌なこと”に対する気持ちを吐露した詞になっています。この記事ではモーターサイクルのレコーディング秘話と歌詞の解釈・意味を紹介します。



「モーターサイクル」基本情報

作詞作曲 藤原基央
編曲 BUMP OF CHICKEN & MOR
作曲時期 2009年4月中旬〜下旬
シングル 2010年10月13日「宇宙飛行士への手紙/モーターサイクル」
アルバム 2010年12月10日「COSMONAUT」
ライブ演奏 なし

「モーターサイクル」の意味

motorcycle [ˈmotɝˌsaɪkʌl/ˈməʊtɜ:ˌsaɪkʌl]
[名詞]オートバイ、自動二輪車、バイク

モーターサイクルとは英語で自動二輪車、すなわちバイクを指す言葉です。ボーカル・ギター 藤原基央さんの実際の友人が乗るバイクが事故にあい破損したことに由来しています。

「モーターサイクル」作曲エピソード

2009年4月、「モーターサイクル」はボーカル・藤原基央さんによって作曲されます。

30歳になって初めて書いた曲

2009年4月、藤原基央さんは29歳の終わり(30歳直前)に「魔法の料理〜君から君へ〜」を作曲します。「魔法の料理〜君から君へ〜」は”過去との対話”の時間、自身のそれまでの経験を振り返りながらの作曲でした。

シングル「魔法の料理〜君から君へ〜」

藤原基央さんは30歳の誕生日を迎え、「魔法の料理〜君から君へ〜」とは異なる全く新しい気持ちで「モーターサイクル」を書きます。

藤原 – ずっと「魔法の料理〜君から君へ〜」の濃厚な匂いの中にいた時期だったんですけど、一気に切り替わってそのときに思っていたことがポロポロと出てきて曲になったんだと思います。 

出典:音楽ナタリー 

「魔法の料理〜君から君へ〜」の童謡のような詞の次に「モーターサイクル」のようなシニカルな歌詞をかけるのがすごいです。

“イヤなこと”がきっかけで生まれた曲

「モーターサイクル」の歌詞が生まれたきっかけは藤原基央さんの心の中にあった「嫌な気持ち」の存在でした。

藤原  – めちゃめちゃイヤなことがあって、めちゃめちゃ悲しくて。そういう時にそのまま書いた曲。そのイヤな気持ちは数ヶ月間あったんですよ。(中略) 数ヶ月後にこの曲を書いて、ずっと覚えてることなんだなって。

引用元:2010年12月号「MUSICA」Vol.45

藤原さんは「モーターサイクル」を書くことでイヤなことを消化しようとしたと述べています。

「HAPPY」と「モーターサイクル」のきっかけは同じか?

シングル「HAPPY」(2010年4月14日発売)

藤原さんは「モーターサイクル」を書く半年前(2008年の秋)に「HAPPY」を書いていますが、この「HAPPY」誕生のきっかけも「イヤなこと」です。

藤原さんが《そのイヤな気持ちは数ヶ月間あった》と語っており、「HAPPY」作曲のタイミングと合致します。2曲の作曲背景に同じ原因が起因しているのか真相は不明ですが、大きな1つの(あるいは連続した2つの)悲しい出来事が藤原さんや周囲に起きていました。

イヤなこととは何でしょうか?

藤原さんは「悲しい」「なぜだろう」と語っており、自らの意思の届かない、第三者によるものと考えられます。周囲の人が事件に巻き込まれたとか、事故に遭ったという類だと拝察されます。

「モーターサイクル」歌詞の意味

「いつの間にか忘れること」への恐怖





藤原さんはある朝、右胸に《戦慄が走るほどの激痛》(本人談)を感じます。生活するうちにいつの間にかその痛みがあったことを忘れてしまいました。

モーターサイクル  0:12〜
起きたら胸が痛かった 心とかじゃなく右側が
夜になったら治ってた 痛かったことも忘れてた

引用元:モーターサイクル / 作詞作曲 藤原基央 (2010年)

藤原さんは2日後に痛かった出来事を思い出します。「戦慄を覚えるほどの痛みなのに、いつのまにか忘れてしまっていた」という感覚に恐怖を覚え、部屋でパンツ1枚になり飲まず喰わずで詞を書いた曲が「モーターサイクル」です。

胸の痛みは肺気胸の症状

歌詞に出てくる「胸の痛み」は本当の症状でした。

藤原 – 俺にとってこの曲はノンフィクションなんだよね。だからシングルになるとは思ってなかった(笑)

肺気胸の前兆で、5年後の2014年に藤原基央さんは入院するなどニュースになります。「モーターサイクル」の胸の痛みについて肺気胸の手術を受けた後に本人がコメントしています。

2015年のインタビューにて

藤原 – “藤原が肺気胸になりました”というアナウンスがあったときに、ファンレターで“大丈夫ですか? 「モーターサイクル」のときから穴が開いてたんじゃないですか?”ってツッコミがちらほらあって。それ、正解です(笑)。

引用元:M-ON! MUSIC  BUMP OF CHICKEN「Hello,world! / コロニー」インタビュー

5年も前から肺気胸の症状が出ていたんですね(その間に病院行かなかったのか・・・)

手術後も神経痛が発症することがあり、その痛みを「コロニー」で歌っています。

コロニー / 0:01~
どこだろう 今痛んだのは
手を当ててから わからなくなる

リアリスティックな表現

藤原基央さんの書く歌詞は、『orbital period』(2008年)の頃から抽象的な表現を多用して哲学的な本質や心理描写、人間の内面を描こうとする曲が多くなりました。「君」「二人」「光」「鏡」「痛み」などの抽象的な言葉を多く使用します。

一方で「モーターサイクル」は非常にリアリスティックな表現で書かれています。

モーターサイクル  0:xx〜
友達のバイクがぺっちゃんこ 泣きたい立場十人十色
なんだってネタにする仕事 敏感不感の使い分け

引用元:モーターサイクル / 作詞作曲 藤原基央 (2010年)

藤原さんの身の回りでは、友人のバイクが事故で破損する出来事がありました。胸の痛み、バイクの事故など、「モーターサイクル」には物的事象の表現が多く存在します。

「モーターサイクル」制作エピソード

アレンジはほとんどデモテープと同じ

「モーターサイクル」のアレンジは藤原さんのアイデアを中心に作られました。ギター2本、ベース、ドラムの間に隙間を作り、それぞれのリズムでおいしいところがある遊びをやってみようという考えで作曲しました。藤原さん個人の趣味によるアイデアです。

デモ音源と完成版の音源はほとんど音の構成が変わっておらず、ギターリフもデモテープの段階であったものを録り直しただけです。

升 – 初めて聴いたときは「カッコいい!」のひとことでしたねしばらくしてから「あ、このドラム、俺が叩くのか!」と(笑)

引用元:2010.12 MUSICA Vol.45

増川さん、直井さん、升さんの3人は曲の構成を理解するのに苦しみました。ボーカルがないとどこを演奏しているか分からないためです。

増川 – デモを聴いて「カッコいいな。よし、やってみるか」って耳コピして、そのあとスタジオで藤くんを除いた3人で合わせる機会があって。そしたらまったくできなかった(笑)。なぜかというと、この曲って歌がないと自分がどこを弾いているかわからなくなるんですよ。

引用元:2010.12 MUSICA Vol.45

増川さんは藤原さんのギターをカバーする際、耳コピしてることがわかります。

直井 – やっていること自体はすごくシンプル。変拍子があるわけでもないし、シンプルなコード進行なんだけど、それがここまで複雑に響くのって凄いなぁと思ったんですよね。ミュージシャンとしては、複雑なリズムの構築感がある曲だと思うし、そこを楽しめる曲だとも思うんだけど、歌詞と唄が入ってくる事によって、リズムが全然複雑に聴こえない。それって実はすごいことだと思うんですよね。

引用元:2010.12 MUSICA Vol.45

さすがベーシストの直井さん、リズム隊ならではの視点で分析しています。

「モーターサイクル」PV

監督 番場秀一
撮影日 2010年9月22日深夜〜翌23日

「モーターサイクル」のMVは番場秀一監督によって制作されました。ワンカット映像のような世界観の中で何人ものメンバーが同時に映し出されていて不思議な空間になっています。

現在AM2:00
まだまだ撮影は続きます。
メンバー頑張ります!

引用元:「TAKAHASHI DIARY」

撮影の様子はリアルタイムで「TAKAHASHI DIARY」に更新されていました。投稿時刻から撮影回数の多さと大変さを窺わせます。

「モーターサイクル」のCD音源と異なりエンディングでイントロが鳴り、オープニングがまた始まるという特別バージョンになっています。

 

「モーターサイクル」ライブ演奏記録

演奏回数 0回  
演奏頻度 ☆☆☆☆

「モーターサイクル」はリリースから15年以上経ちますが、一度もBUMP OF CHICKENのライブで演奏されたことのない楽曲です。

なぜ演奏されないのか?

理由は藤原さんが歌いながら弾くにしては難しいパートだからです。ギター単体で弾くのは問題ないですが(というかレコーディングで弾いてるので)、リズムも和音も複雑で歌いながらでは弾くことが出来ません。

ライブ演奏に前向きだったメンバーも

升 – これを生で叩けたら絶対カッコいい曲になるなってデモの段階で確信した。歌えるビートだなって。ライブで演ったら僕らもお客さんも盛り上がれる曲だなと思います

升さんはライブでの演奏に前向きに捉えています。いつかライブで演奏される日は来るのでしょうか。

以上、「モーターサイクル」の歌詞の意味とエピソードについて紹介しました。