6th Album 『COSMONAUT』升秀夫

楽曲解説「セントエルモの火」富士山に登る升秀夫への思いを綴った曲

6th Album 『COSMONAUT』

「セントエルモの火」はBUMP OF CHICKENが2010年に発表したアルバム『COSMONAUT』収録曲です。

「セントエルモの火」とは船舶や飛行機が発光する現象を意味する言葉で、歌詞はボーカル・ギターの藤原基央さんがドラムの升秀夫さんを追いかけて富士山に登ったエピソードにもとに書かれています。

藤原さんはどうして、升秀夫をさんを追いかけて富士山に登ったのでしょうか。この記事では「セントエルモの火」の制作エピソードと歌詞の意味を解説していきます。



「セントエルモの火」基本情報

アルバム「COSMONAUT」

作詞・作曲 藤原基央
編曲 BUMP OF CHICKEN & MOR
作曲時期 2008年12月
録音時期 2009年
制作場所 東京都一口坂スタジオ
収録作品 2010年12月15日 アルバム『COSMONAUT』
ライブ演奏回数 なし 

「セントエルモの火」の意味

セントエルモの火(セントエルモのひ、英: St. Elmo’s fire)は、悪天候時などに船のマストの先端が発光する現象。激しいときは指先や毛髪の先端が発光する。航空機の窓や機体表面にも発生することがある。 

Wikipedia – セントエルモの火

「セントエルモの火」とは、船舶や飛行機の機体にまとわりついた静電気が発光する現象を意味します。ボーカルの藤原基央さんが、2008年夏の富士登山の途中で見た飛行機になぞらえてタイトルがつけられています。



「セントエルモの火」作曲エピソード

「セントエルモの火」は2008年12月にボーカル・ギターの藤原基央によって作曲されました。作曲のきっかけとなったエピソードは、同年夏に行った富士山への山登りの経験でした。

升秀夫を追いかけて富士登山する藤原基央

2008年夏、ドラムス・升秀夫さんは富士山に登ります。その情報を聞きつけた藤原さんは升さんに内緒でスタッフと富士山に登り、頂上で升さんを驚かせようとします。

夜が明けて頂上につき、藤原さんは升さんの眼前に登場します。すごく驚くだろうという藤原さんの予想に反し、升さんは「ああ、来てたんだ」とすごく落ち着いた返答で骨をくじかれた思いをしました。ラジオ番組「PONTSUKA!!」でもその話題に触れています。

升 – 登ってったら頂上でばったりなんか(藤原に)会ったんだよ。『あれ?何やってんの?』って言って(笑) 藤原的には先回りして俺を驚かすみたいな感じだったらしいんだけど。

引用元:「PONTSUKA!!」2009.09.07

「あれ?何やってんの?」っていってしまう升さん、クールすぎます。 藤原さんは驚かすことができずがっかりしたそうですが、升さんと藤原さんは一緒に富士山を下ります。仲が良いですね。

升 – 登る時はバラバラだったんだけど、下りる時は(藤原と)一緒に下りて来ましたよ。

引用元:「PONTSUKA!!」2009.09.07

このエピソードの途中、藤原さんは富士登山中の夜に飛行機を見ました。「セントエルモの火」というタイトルはここから取られたと推測されます。アルバム「COSMONAUT」の「セントエルモの火」の歌詞カードには富士山が描かれています。

「セントエルモの火」歌詞の意味

「セントエルモの火」の歌詞には登山の様子が描写されています。

夜が終わる前に追いつけるかな
同じ坂道の上の違う位置で
同じ場所に向けて歩いているんだ
今どんな顔してる

引用元:「セントエルモの火」(2010年)/藤原基央

ただ単純に情景描写だけでなく、山登りを2人の関係のモチーフとして書いています。

how far are you?
一緒に生きてることは 当たり前じゃない
別々の呼吸を 懸命に読み合って
ここまで来たんだよ

引用元:「セントエルモの火」(2010年)/藤原基央

まるで藤原さんと升さんの距離感を語っているように感じます。この後に出てくる《近くても遠くて面倒な僕らだ》というフレーズも然り、BUMP OF CHICKENのメンバーであり、同級生である2人の関係性について歌い上げています。

BUMP OF CHICKENのステージではいつも升さんが藤原さんの背中を見てドラムを叩いていますが、この日は升さんの背中を藤原さんが追っているという対比の構図になっています。

藤原基央と升秀夫の関係性

10代の藤原基央と升秀夫

ボーカル・藤原基央さんとドラムス・升秀夫さんの2人は互いに強い信頼関係で結ばれています。BUMP OF CHICKEN結成前のバンドに藤原さんを勧誘をしたのが升さんであり、最初に音楽の関係で結びついたのが2人でした。

以前、練習の鬼と呼ばれる升さんに対して、藤原さんはもっとバンドとしてコミュニケーションを取るべきだとラジオで注意したこともあります。

藤原 – ワナワナと打ち震えながら教えたいですよ。みんなで飯行こうって言ってる時に「俺、練習あるから」って言うな!

升 – 個人の時はそれないから(笑)

藤原 – うるさい!練習大事ですよ。だけどみんなでご飯食べる時間も大事ですよ。それが強いては、お前わかったこと言うな!スタジオで顔見合って練習するって言うのが、飯の時間で育まれていくわけですよ。それをお前はね、クリック聴いて練習してるわけですからね。お前のバンドのメンバーはクリックなんかっていう話ですよ。アホか!

引用元:「PONTSUKA!!」

文字起こしするときつい感じに見えますが、終始笑いながら藤原さんは注意しています。藤原さんと升さんは互いに音楽に対する知性と情熱をを持ち、信頼し認め合っている関係に近いです。

「セントエルモの火」制作エピソード

2008年12月、藤原さんは夏の富士登山のエピソードをもとに「セントエルモの火」を作曲します。ほぼ同時に「HAPPY」を書き、その直後に「66号線」を書きました。

「COSMONAUT」初期の楽曲

アルバム「COSMONAUT」

直井 – (COSMONAUTで) 最初に出来た3曲のうちのひとつなんです。

引用元:「MUSICA」2011年1月号

2007年12月の「orbital period」以降、(再録曲「プレゼント」を除き)新曲制作が行われていなかったBUMP OF CHICKENにとって久しぶりの新曲が「セントエルモの火」でした。

2009年から藤原さんは自宅で曲が書けなくなるため、自宅作曲時代の終盤の楽曲と言えます。

ピックで弾くギターのアルペジオでの演奏

「orbital period」まで指弾きによるアルペジオが多かったため、藤原さんはピック弾きのアルペジオというルールを決めてを曲作りをはじめます。

藤原 – 最近アルペジオって言うと結構3フィンガーが多くて。久々にピックで弾くアルペジオから曲を書いてみたんだよ。やっぱピック弾きでやるとアンサンブルしていきたくなる。それが楽しい。だからこの曲もアンサンブルされてるんです。

「銀河鉄道」「東京賛歌」「ガラスのブルース」などのカップリング曲も含めると「orbital period」期には7曲もの指弾き曲が制作されています。

orbital period
指弾きアルペジオの曲

M-01 voyager 
M-10 花の名
M-15 arrows
M-17 flyby

ピック弾きのアルペジオ主体の楽曲には「リトルブレイバー」「メロディーフラッグ」「ロストマン」「時空かくれんぼ」「サザンクロス」「青の朔日」などがあります。ギターとベースが絡み合うアンサンブルが特徴的な楽曲ばかりです。

課題を分析する増川

増川 – ギターも実は難しいんですよ。これまでも弾けると思って弾けなかった曲があるんですけど、これもそうで。この手の角度だと永久に弾けないのかな?とか、かなり考えましたね。

BUMP OF CHICKENの楽曲のほとんどのギターは藤原さんによってレコーディングされています。増川さんは全音符やかすかに聴こえるバッキングトラックなど、比較的簡単なパートが多いです。「セントエルモの火」ではアルペジオなどの重要なパートを弾いており、この曲でも演奏上の課題について真摯に分析しています。

COSMONAUTの中でも最初の曲ということもあり、長い時間向き合って来た曲となりました。そういう意味では直井さんは寂しさも感じたようです。

直井 – この曲は今回のアルバムレコーディングでずっと一緒に過ごして来た曲なんだよね。だから録り終わったことが凄く寂しくて、ずっとバイトに行ってたのに、明日からは行かなくていい、みたいなのと同じポッカリ感があった。

引用元:「MUSICA」2011年1月号

「ずっとバイト行ってたのに、明日から行かなくていい」という表現は、”自分で辞めた”というよりも”行く必要がなくなった”というニュアンスのほうが強く感じます。喫茶店やローソンの店員、幕張メッセ近くのレストランの厨房のアルバイトをしながら、メジャーデビューを果たしCDが売れ、バイトをする必要がなくなったという直井さんならではの感覚です。



ドラム:とある決断をした升

embedded from twitter@boc_chama

技術面でハードルが高かった曲で、特にドラムの升さんやギターの増川弘明さんは試行錯誤を繰り返しました。

升 – これはバンプ・オブ・チキンのドラマーとして、僕にとってはすごく大きな曲ですね。これを凄い演奏にしたいんだけどできない、っていうのがまずあって。この曲に向けて変わっていかなきゃいけない部分がすごくあった。今までのスタイルをやめてみるっていう決断をした曲というか・・・そういう決断をしてでも、このドラムを叩きたいなぁというのがあったから、そういう曲。

プレーのスタイルを変えるというのは、技術的にも精神的にも大きな勇気が必要なはずです。それを決断する升さんにとっては、やはりこの曲は大きな思い入れがある曲なのでしょう。

「セントエルモの火」ライブ演奏記録

演奏回数 0回
演奏頻度 ☆☆☆☆☆
初披露
最終演奏
演奏ツアー・ライブ

ライブで披露されたことはない!

「セントエルモの火」はライブで演奏された記録はありません。これはおそらく、藤原さんと増川さんのパート分けの問題です。増川が間奏のギターソロを弾いていると間奏明けのアルペジオが弾けなくなり、同期SEではカバーしきれないからだと考えられます。

以上、「セントエルモの火」について解説しました。いつかライブで聴けると良いですね。