5th Album『orbital period』歌詞・楽曲解説

楽曲解説「メーデー」救難信号を挟んだ両者の物語

5th Album『orbital period』
シングル「メーデー」

「メーデー」はBUMP OF CHICKENが2007年に発売した通算13枚目のシングル曲です。

 

子供の頃に見た映画で <メーデー!>と叫ぶ姿が印象的に残っていたという、作詞作曲の藤原基央さん。

 

救難信号を意味する「メーデー」に込められた想いとは何か、この記事では「メーデー」の歌詞の意味や制作エピソードについて紹介します。



「メーデー」基本情報

メーデー:基本情報作詞作曲:藤原基央
作曲時期:2007年5-6月
録音時期:2007年7-8月
録音場所:一口坂スタジオ
リリース:2007年10月24日 「メーデー」
アルバム:2007年12月19日 「orbital period」
ライブ初披露:2007年10月17日「FM802 “DESIGN THE NIGHT” SPECIAL LIVE ~ICON-TACT~」なんばHATCH

 

音楽的な部分から作った楽曲

「メーデー」は2007年5〜6月頃に作曲されます。藤原さんはバスドラムの位置をセオリーからズラした16ビートでリズムパターンの試行錯誤し、楽曲に発展させます。

 

藤原 – この曲自体の始まりは、リズムかな。16ビートのドラムを打ち込んでいて、割と変なビートを打ち込んでて。(中略) で、一曲作っちゃおうみたいな雰囲気になったんでしょうね。

引用:MUSICA 2007年11月号

 

「メーデ」の他にもリズム遊びや実験的作業から楽曲に発展することがありました。「乗車権」は音遊び、「morning glow」はイントロのフレーズ、その他にも”ゴスペル”や”四つ打ち”といったテーマを掲げて作曲することがあります。

 

次に藤原さんは作ったビートにベースでコード進行を足します。ベースとドラムだけの「メーデー」の原曲はこんな感じだったのでしょうか、再現して見ました。

 

 

藤原さんはこのベーシックにギターを重ねて「メーデー」にしていきます。ギターを重ねるとそれっぽくなりますね。

 

 

藤原さんの曲作りは作詞がものすごく慎重なのに対し、作曲では個人的な趣向やその場の瞬発力で進めることがある点が対照的です。

 

「メーデー」の意味

フランス語 m’aider 
名詞:メーデー 《船舶・航空機の発する無線電話による遭難信号》

 

藤原 – 『メーデー、助けてください』っていう、そこのドラマで曲を作りました。

引用:MUSICA 2007年11月号

 

メーデーの意味は船舶・航空機が発する遭難信号のことです。フランス語の venez m’aider (英語:help me) が由来になっており、労働者の祭典を意味するMay Dayとは由来が異なります。

 

藤原さんは子供の頃に見た映画などで <メーデー!メーデー!> と救難信号を発信している光景を覚えていました。作曲するようになってから、ずっと書きたかったテーマだといいます。

 

「メーデー」の歌詞の意味

歌詞を書きながら大きくなった”救難信号”

もともとはタイトルは「メーデー」にするつもりではなかったものの、歌詞を書くうちに”救難信号”の意味が大きくなり「メーデー」のタイトルが付けられました。



藤原 – “メーデー”っていうタイトルになると思わなかった、最初。でも作詞の作業の最終段階らへんで、救難信号を聞いてるっていうことが凄くデカくなってきたんでしょうね。それでまあ、救難信号聞いちゃった人とか聞かれちゃった人とかそこの話なんだなっていうことになってきて、それでタイトルが救難信号になったわけです。

引用:MUSICA 2007年11月号

 

藤原さんは「メーデー」を潜水の叙景で表現しています。もし歌詞の重心が(比喩的な)「水の深さ」や「呼吸の長さ」に置いてあったら、それに因んだタイトルがつけられていたかも知れません。藤原さんの曲名付けのプロセスを窺い知ることができます。

 

救難信号を発している「君」を他者と捉えることも、自己の内面と捉えることも、藤原さんは聞き手のひとり1人が独自の解釈ができるような歌詞にしています。

 

藤原 – あなたがあなたに口付けする覚悟がなきゃいけないわけですから。

2008年2月12日 TOKYO FM「SCOOL OF LOCL!」

 

歌詞に登場する “口付け” という単語は、BUMP OF CHICKENの楽曲で「メーデー」にしか登場しない言葉です。


「orbital period」全曲解説 「ROCKIN’ ON JAPAN」2008年2月号

 

ライブ披露初期に語られた想い

2007年10月19日、2回目となるライブ演奏で藤原さんが語った言葉です。

 

藤原 –「SCHOOL OF LOCK!」でコーナーやってた時は・・・ずっとこういう気持ちでした。「メーデー」!

2007年10月19日「SCHOOL OF LOCK! LIVE TOUR “YOUNG FLAG”」at ZEPP TOKYO

 

「BUMP LOCKS!」のコーナーで若いリスナーと生電話をしたり、メッセージをもらったりする中で藤原さんの中には救難信号に似た想いを受け取ったのかも知れません。

 

「メーデー」制作エピソード

夏フェスの合間に行われたレコーディング

2007年7〜8月、夏フェス出演の合間をぬって「メーデー」のレコーディング作業が行われました。TAKAHASHI DIARYには2007年8月9日にレコーディング中と記され、「花の名」「東京賛歌」「ガラスのブルース〜28 years around〜」も含めた4曲がこのタイミングで録音されています。

 

2007年7月16日 夏のイベント(画像埋込:Barks.jp

「ロックだぜ!」という気分になったフレーズ

BUMP OF CHICKENのレコーディングはベーシック部分(ベース+ドラム)を録音することが多いですが、リズム遊びから派生した曲ということもあり、どの楽器から本番レコーディングに臨むべきかわからなかったといいます。

 

藤原 – “メーデー”のスタートの16分(音符)のザクザクしたミュートディレイアルペジオっていうのかな、そういうフレーズが合流してくるわけですけど。(中略) その時に久々にギターっていうのはこういう音だったというか — だいぶ変な言葉をいいますけど、久々に「ロックギターだぜ!」みたいな気分になったっつうか(笑)

引用元:「MUSICA」2008年1月号

 

升秀夫のドラムソロ

「メーデー」では升秀夫さんのドラムソロが入っています。「ロストマン」で別録りドラムを重ねたことはありますが、BUMP OF CHICKENの楽曲でドラムソロは珍しいです。

 

升 –  俺、ドラムソロなんてやったことないですからね。やったことないし、やろうとも思ったことないですから。まったく頭になかった。で、ドラムセットの前に座っても、何も出てこなかった(笑)

出典:Barks.jp




何も思いつかなかった升さんは、藤原さんが叩いたパターンを参考にしながらドラムソロを作りました(当日のTAKAHASHI DIARYにはドラムを叩く藤原の写真がアップされた)

ルート弾きへのこだわりとトニー・レヴィンをイメージしたフレーズ

 

重ね録りで使用したフレットレスベース Fender Jaco Pastoriusモデル

 

直井由文(チャマ)さんはソニック製のジャズベース(Ice Blue Metalic) で「メーデー」のベース録りをしています。指弾きで演奏し、アンプはHIWATT 200を使用しました。

 

直井さんといえば『FLAME VEIN』『THE LIVING DEAD』のような動き回るベースが得意ですが、『ユグドラシル』でベースの存在意義を追究して以降ベーススタイルが変わります。「メーデー」ではルート弾きがむしろかっこいいと思えるようになったといいます。

 

「メーデー」は他の楽曲にはほとんどない、別のベースによる多重フレージングが入っています(アルバム版 1:11〜、3:06〜)。Fender製Jaco Pastoriusモデルのフレットレスベースを使用してベースの名手トニー・レヴィンをイメージして弾きました。トニー・レヴィンの感覚を身につけるために、キング・クリムゾンやトニーが参加した氷室京介のアルバムを聴いたといいます。

 

ひとりごと」でも同じ機材でベースの重ね録りをしており、当時の直井さんの音楽性の傾向が窺い知ることができます。

「PONTSUKA!!」収録後のボーカル録り

「メーデー」のボーカル録りはラジオ番組「PONTSUKA!!」の収録終わりに行われました。

MUSICA vol.9 「orbital period」全曲解説

 

シングル化と発売日への想い

山梨県西湖で撮影された「メーデー」CDジャケット

2007年10月24日「メーデー」「花の名」2枚が同時リリースされます。当初は1週間前の10月17日の発売予定でしたが、都合より24日になりました。

 

直井 – 10月24日なんです。藤くん、これになんと意味があるという・・・!

藤原 – 意味、、、無いんじゃないか?(笑)

2007年9月10日放送「PONTSUKA!!」

 

1998年10月24日は自主CD音源「BUMP OF CHICKEN」を初めてリリース日です。直井さんは日付を覚えていたのでしょうか。日付の変更は映画の解禁などの理由だと推測されます。

「かさぶたぶたぶ」誕生のきっかけとなる

『orbital period』収録のアルバム曲「かさぶたぶたぶ」は「メーデー」の隠しトラック候補として藤原さんが書いた曲で、楽曲の完成度の高さによりアルバムへ収録されることになりました(CD『メーデー』収録の隠しトラックは直井さん作曲の「スターダストダンスホール」)

 

関連記事 – 楽曲解説「かさぶたぶたぶ」

「メーデー」PV

撮影日 2007年
監督 番場秀一

「メーデー」のPVは番場秀一監督によって制作されました。<息は持つだろうか>の世界観の通り水面、水中をモチーフにした幻想的な映像になっています。

 

「メーデー」ライブ演奏記録

YOUG FLAG BUMP OF CHICKEN2007年10月19日 YOUNG FLAG at ZEPP TOKYOで演奏するBUMP OF CHICKEN *This photo is directly embedded from rokinon.com



演奏回数 115回
演奏頻度 ★★★★
初披露 2007年10月17日FM802 “DESIGN THE NIGHT” SPECIAL LIVE ~ICON-TACT~
最終演奏 2022年7月03日「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 2/10-11」千葉幕張メッセ
演奏ツアー 2008年「ホームシック衛星
2008年「ホームシップ衛星
2008年「ROCK IN JAPAN FESTIVSL 2008
2011-12年「GOOD GLIDER TOUR
2012年「GOLD GLIDER TOUR
2013年「ベストアルバム発売記念特別ライブ
2013年「WILLPOLIS
2013年「RADIO CRAZY
2014年「BUMP OF CHICKEN Live in Taiwan
2014年「WILLPOLIS 2014
2015年「BUMP OF CHICKEN Special Live
2015年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015
2019年「aurora ark

*2021年4月現在

「メーデー」はBUMP OF CHICKENの楽曲の中でも演奏頻度の高い楽曲で、初披露された2007年から2010年代中盤までほぼ全てのライブで披露されていました。2016年「STADIUM TOUR “BFLY”」「TOUR 2017-2018 “PATHFINDER”」では披露されませんでしたが、フェスで披露されたり、2019年「TOUR 2019 “aurora ark”」ではアンコールで披露されています。

ライブ演奏機材

2008年
ホームシック衛星〜ホームシップ衛星
藤原基央 – Gibson Les Paul Special TV Yellow 
増川弘明 – Gibson Les Paul Standard Historic Collection Reissued 1959 (2003年製)
直井由文 – Sonic Jazz Bass Ice Blue Metallic (通称:弍号機)
2011-2013年
GOOD GLIDER TOUR 〜WILLPOLIS
藤原基央 – Gibson Les Paul Special TV Yellow 
増川弘明 – Gibson Les Paul Standard Historic Collection Reissued 1959 (2003年製)
直井由文 – Sonic Jazz Bass Chama Blue (通称:初号機) 
2015-2019年 
Special Live 2015 〜TOUR 2019 “aurora ark”
藤原基央 – Gibson Les Paul Special TV Yellow
増川弘明 – Gibson Les Paul Standard Historic Collection Reissued 1959 (2003年製)
直井由文 – Fender Jazz Bass 
SE同期 全公演あり

「メーデー」のライブ機材、藤原さんと増川さんのギターは長年愛用しているメイン機を使用しています。直井さんはリリース当初こそレコーディングで使用したSonic製 通称”弍号機” を使用していますが、その後 Sonic製 通称”初号機”、Fender製カスタムオーダーモデルと機材を変えているのが特徴です。

ライブ演奏の変化

2008年の「ホームシック衛星」「ホームシップ衛星」まではイントロの2本のギターの絡みは1本をSE同期に任せていましたが、2011年「GOOD GLIDER TOUR」から藤原さんがディレイを使用して演奏するようになり、2019年の「TOUR 2019 “aurora ark”」まで弾いています。

 

升さんのドラムソロもツアーごとにマイナーチェンジをしており、藤原さんもCDにはないギターチョーキングを弾いたり、直井さんがスラップフレーズを弾いたり、細かいアレンジがライブごとに変化しています。

「メーデー」ライブ映像

「メーデー」のライブ映像は5作品に収録されています。

映像作品「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012」
アルバム「RAY」初回限定版特典DVD(2013年8月9日「ベストアルバム発売記念ライブ」収録)
アルバム「Butterflies」初回限定版特典DVD(2015年8月4日「Special Live 2015」収録) Butterflies BUMP OF CHICKEN
アルバム「aurora arc」*特典Blu-ray/DVD(2018年12月28日「COUNTDOWN JAPAN 18/19」収録)
映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark TOKYO DOME」

 

購入可能な上記作品以外にも有料放送やテレビなどでもライブ映像がオンエアされました。

  • 2008年1月15日「ホームシック衛星」旭川カジノドライブ (SSTV)
  • 2008年5月17日「ホームシップ衛星」さいたまスーパーアリーナ(NHK)
  • 2008年8月1日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008」(SSTV) など

収録作品の多さや演奏頻度の高さから見ても、ロングフェローやトイズファクトリのスタッフから気に入られている楽曲、なのかも知れません。

 

以上、BUMP OF CHICKENの「メーデー」の歌詞の意味と制作・ライブエピソードについてまとめました。

 

関連記事 – 楽曲解説「voyager」&「flyby」