「レム」はBUMP OF CHICKENの『ユグドラシル』に収録されている楽曲です。藤原基央さんによる人間の内面をシニカルな語り口調で捉えた歌詞が印象的で、当時の音楽誌に「アルバムの中でもっとも”凶暴な曲”」と評されました。
過去のインタビューに基づいて、レムを紹介します。
「レム」基本情報
作詞・作曲 | 藤原基央 |
編曲 | BUMP OF CHICKEN |
作曲時期 | 2003年 |
録音時期 | 2003秋〜冬 |
収録作品 | 2004年8月25日 アルバム「ユグドラシル」 |
ライブ演奏 | なし |
「レム」の意味=レクイエム
「レム」はレクイエム(requiem = 鎮魂歌)という意味です。藤原さんはこの詞を書く時、殺人鬼の気持ちになって作詞に臨みました。
藤原 – これ、前のインタビューでレクイエムって言いましたっけ?(殺人鬼の気持ちで書いたことについて)確か愛があるからと付け加えた気がしますね。やっぱ殺したんじゃないかなぁ。
藤原さんはこの曲の詞を書くには「殺人鬼の視点になるしかなかった」といいます。
「レム」の作曲エピソード
2003年の秋〜冬頃、藤原基央さんは自宅で曲を作ります。朝に書き始めて夜に「レム」が出来上がりました。
殺人鬼の気持ちになって書いた「レム」に、藤原さん自身も他の曲との”温度差”を感じます。レコード会社的に大丈夫なのか、珍しくそんな心配をしながらディレクター(現・プロデューサーのMOR氏)を家に呼びます。
藤原 – レコード会社的にまずかったりするのかなって、ディレクターに「こんな変な曲ができたんだけどどう?」と変な曲って先に言っといて予防線を張ったりしておいたんですけど。
引用元:QUIP MAGZINE vol.38
藤原さんの家で「レム」を聴いたMOR氏は「いいじゃん、録ろうよ」と好反応を示し、翌日スタジオに入りプリプロ制作を提案します。
スタジオに向けて眠れなかった藤原さん、深夜にギターで「レム」のコード進行でジャカジャカ弾きます。この時に出来た曲が「車輪の唄」です。
「レム」の歌詞の意味
「レム」の歌詞について、藤原さん本人もその凶暴性を自認しています。
藤原 – 詩に関して、なんでもありになっちゃって、それに関して人を傷つけたりしないかなと考えたこともあったけど、でも、それも責任。堂々と歌っていこうと思う。
引用元:Saturday Storm
「レム」は人間の心の深層の部分を歌うが故に、危険な解釈をされてしまう可能性もあります。
「愛」とその反対
藤原 – 他者がいる時の行動だと思うんだけど、どれが愛でどれがその逆なのか、よくわかんないんですよ(笑)。どうやったら近寄ったことになって、どうやったら拒絶したことになるのか、もしくは離れたことになるのか、よくわからないです。
愛情とは相手を甘やかすことだけではありません。「愛があるから叱る」「愛ゆえに厳しくする」というように、相手に苦痛を与えることも愛情のひとつとも言える時があります。
「レム」は愛か、その逆か
「レム」は「愛」なのか「その逆」なのか。明言はしていませんが、藤原さんは次のように述べています。
藤原 – ”レム”がどっちに作用してるかって全くわからないですけど・・・だけど最後にちゃんと近づいてはいるんだよな、そういえば。
レム 3:39〜
現実と名付けてみた妄想 その中で借り物競走
走り疲れたアンタと 改めて話がしたい
心から話してみたい
引用元:レム / 作詞作曲 藤原基央 (2004年)
最後の3行で相手に対して近づいていることがわかります。
「レム」を収録するか悩む
「レム」を書きあげた後、藤原基央さんはレコーディングすることに2つの理由で悩みました。
BUMP OF CHICKENの曲として
「レム」は個人的な主義主張でないかと藤原さんは考えました。この曲をBUMP OF CHICKENの作品として発表することは直井さん、増川さん、升さんの作品になることを意味します。
弾き語りの楽曲として
もう1つの理由は、バンドサウンドで録音しないということです。インディーズ時代のデモテープに収録されている「Let it be」や「Grown up person」、『THE LIVING DEAD』収録の「Opening 」 「Ending」を除けば、BUMP OF CHICKENの楽曲は全て4人の楽器演奏で作られていました。
1999年頃、藤原さんは業界人からのソロとしての引き抜きを断った経緯があり、4人での作品づくりにこだわっていた過去もあります。
そんな中、「曲が求める形にする」という『ユグドラシル』以後の藤原さんの大きな基準となる考え方が藤原さんを後押しし、弾き語りで収録されることになります。
「レム」レコーディングエピソード
4分間ループする同じギター
「レム」は1セットのコード進行が4分間ループしています。ギターの長さは感覚的にアドリブで入れたといいます。
藤原 – 尺はもうアドリブで決めた。間奏の長さとか。
直井 – で、ギターだけが響いてるから、頭おかしくなっちゃったのかと思った。(中略) いや、もうずっと弾き続けてるんですよ、「あっダメだ」とかなんか1人で言って。引用元:QUIP MAGZINE vol.38
アコースティックギターにレコーディングが終盤に差し掛かった時、藤原さんのお腹が鳴ってしまいます。
藤原 – 俺の腹が鳴ってしまったんです。ギュルーッて。
直井 – マイクではあまり拾われてなかったんですけど、本人は「今腹が鳴った」って止めて。引用元:QUIP MAGZINE vol.38
こんなことをしながら3時間ほどでオケの録音を完了させました。
直井 「レムに対して責任を取れます」
藤原基央さん以外の3人は「曲が求める形」のために自分たちが演奏に参加しないことを前向きにとらえます。
直井 – (藤原が)”レム” 弾いてる時でも、その曲ができた時でも自分の曲にしか思えない。だからその曲になにがあっても責任を取れます。だから俺、いつでもベースは持ってました。もう全部用意しときました。アンプもシールドも全部。ドラムも全部組んであったし、いつでも入られる準備はありました。
藤原さん単独でのレコーディングの時も、直井由文さん、升秀夫さん、増川弘明さんの3人はスタジオでベースやドラムをセットしていました。「レム」はBUMP OF CHICKENの楽曲なのです。
「曲の求める音」理念を体現した『ユグドラシル
4th Album『ユグドラシル』「曲の求める音を奏でる」を至上命題に制作されたアルバム。前作「jupiter」に比べサウンドは精細かつ洗練され、BUMP OF CHICKENの制作活動の根幹となる理念を体現した最初の1枚。
直井 – 前だったら俺は絶対弾いちゃってたと思う。それはエゴになっちゃんうんですけど。でも、今は曲がいってることがよくわかるから、弾く必要がほんとねえなって思うんです。
3人には自己主張や目立ちたいという気持ちは全くありませんでした。「全ては曲のため」、これが『ユグドラシル』を名盤にせしめた基本理念です
「レム」以降、「Everlasting Lie – Acoustic version」「睡眠時間」など藤原さん単独による楽曲に繋がります。これによりにBUMP OF CHICKENのサウンドが広がりました。
まとめ – BUMP OF CHICKENの「レム」
「レム」はBUMP OF CHICKENの楽曲においてサウンドと歌詞の両面で大きな転換を迎えた曲といえます。
この曲を聴く時に、こんな経緯があったことを思い出すと新たな曲の聴き方ができるかもしれません。以上、「レム」の解説でした。
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