4th Album 『ユグドラシル』増川弘明

楽曲解説「fire sign」悩める増川弘明に贈られた曲

4th Album 『ユグドラシル』

「fire sign」はBUMP OF CHICKENの「ユグドラシル」に収録されている楽曲です。

 

「fire sign」の意味は直訳すると「火の印、兆候」となり、ボーカル・ギターの藤原基央さんがギタリスト・増川弘明さんの誕生日に贈ったプレゼント曲として知られています。

 

アルバム曲にもかかわらず人気が高く、ライブのアンコールをかける際に合唱で歌われるなどファンの間で特別な曲です。



「fire sign」基本情報

アルバム「ユグドラシル」

アルバム「ユグドラシル」(2004年8月)”曲が求める音”という基本理念を形にした一つの到達点となるアルバム。

作詞・作曲藤原基央
作曲時期2003年12月20日以前
プリプロ制作2003年12月20日
リリース2004年8月25日『ユグドラシル』M-11
ライブ初披露2004年8月5日  韓国・ソウル SOUND HOLIC公演

「fire sign」の意味

「fire sign」とは英語で”火の印”や”火の灯り”という意味になります。「fire sign」の歌詞に登場する <命の火が燃えてる>というフレーズから付けられた曲名です。

 

fire sign / BUMP OF CHICKEN

微かでも 見えなくても

命の火が燃えてる

 

作詞・作曲した藤原基央さんは、どのような理由で「fire sign」を書いたのでしょうか。

 

「fire sign」はギタリスト・増川弘明(ヒロ)さんの誕生日に渡された曲であり、当時増川さんはBUMP OF CHICKENを脱退するか悩んでいたといわれています。

藤原基央から増川弘明への誕生日プレゼント

スタジオで生まれた「fire sign」

「ユグドラシル」制作期間中のBUMP OF CHICKEN(画像埋込元:pinterest.jp

2003年の夏フェス出演以降、BUMP OF CHICKENはアルバム「ユグドラシル」の制作活動を本格化させていました。

 

ボーカル・ギターの藤原基央さんは別の楽曲のレコーディングの合間に「fire sign」を書き上げます。

 

藤原 – レコーディング中とかでも書くことはできるんだなと思いました。あんまりなかった経験です。で、弾き語りでデモテープを録らせてもらって。

 

当時は自宅での作曲が多かった藤原さんですが、珍しく「fire sign」はレコーディングスタジオで1日で書きました。

デモを渡した日にプリプロダクション制作

藤原さんはそのデモテープを他のメンバーには聴かせる日を決めていました。それは2003年12月20日、増川弘明さんは24歳の誕生日です。

 

当時使用していた一口坂スタジオ(東京都・千代田区)では、藤原さん、増川さん、ドラムス・升秀夫さんの3人が作業していました。ここで藤原さんは増川さんへの誕生日プレゼントとして「fire sign」を贈ります

 

増川さんに「fire sign」を聴かせた後、藤原さんはギター1本と仮歌だけのプリプロ音源を制作します。

 

このプリプロ版のボーカルテイクはリラックスしてザラッとした感じの歌声ですごく良かったのですが、本番のテイクで差し替えられました。



「fire sign」レコーディングエピソード

“修羅場を超えた音”が入っている(藤原基央)

増川弘明 ギター 脱退 fire sign

「ユグドラシル」制作期間中のBUMP OF CHICKEN(画像埋込元:pinterest.jp

「ユグドラシル」は、BUMP OF CHICKENがそれまでの自らの音楽の次元を超えた、厳しい制作理念で作られたアルバムです。

 

「曲が求める音を追求する」という理念を最優先事項に掲げ、楽曲に合っていないドラムやベースなどのアレンジに対して互いにNGを出し合うなど、かつてない厳しい姿勢で曲と向き合います。

 

2003年12月 ユグドラシル制作状況

リリース済み「ロストマン」「スノースマイル
レコーディング済みembrace」「同じドアをくぐれたら」「車輪の唄」「レム
プリプロ済みオンリーロンリーグローリー

太陽」は詳細不明、「ギルド」は「太陽」レコーディング中の2003年11月27日に作曲。

 

藤原 – 明るい表情をしているけれども、この和音とこのメロディーとこの詞がくぐり抜けてきた修羅場っつうのは相当な数だと思います(笑)。

ROCK’IN ON JAPAN 2004.08

 

同じドアくぐれたら」「車輪の唄」といったアルバム初期のレコーディングでは、メンバーは演奏に苦戦しました。

 

なぜなら、当時ギターロックと形容されやすかったBUMP OF CHICKENの殻を破り、楽曲の求める理想の音を体現する媒体として、エゴを抑えたプレイに徹する必要があったからです。

 

藤原 – この曲に関してはもう、「車輪の唄」の時とは違って、他のメンバーもやるべきことが既にわかってた感じでしたね。ある種の予定調和感すら感じましたし。

ROCK’IN ON JAPAN 2004.08

 

『ユグドラシル』レコーディングによって技術的にも哲学的にもレベルアップしたメンバーは、「fire sign」の頃には自分たちがどんな音を出すべきなのか理解していました。

 

悩める増川さんに贈った曲

BUMP OF CHICKEN ギタリスト・増川弘明(画像埋込元: pinterest

当時増川さんはバンドを脱退するかどうかで悩んでいたと言われています。脱退という具体的な選択肢はネットの噂レベルですが、客観的にみても上の3点から増川さんと3人の関係性に何かあったことがわかります。

 

① 藤原の「個人レベルで色々あった」「バンドとは疎遠だった」というインタビュー発言
② 増川の「embrace」と「同じドアをくぐれたら」へのレコーディング不参加
③ 「fire sign」の歌詞の内容

 

藤原 – そうそう、個人的なレベルでいろいろあって『まあ、あんま言えないすけど』みたいな事言ってたじゃないですか。

2004.08 ROCKIN’ ON JAPAN 

 

当時、増川さんは大学留年、中退、けっこnという悩みがありました。特に増川さんはバンド活動と学業の両立が難しくなっていました。中央大学に1浪して入学したものの、理系の研究に時間を費やす必要があったためです(大学で留年もした?)。

 

インディーズの時に浪人中の増川さんを抜いた3人でライブに出たこともあり、学業とバンドとの平行活動が難しかった増川さんと3人の間には、温度差があったと思われます(私の想像ですが、3人は脱退を進めたりは決してせず、増川さんに学業に本腰を入れるのならそれでも構わない姿勢だったのだと思います。ただ「バンドは先に進んでいくよ」ということはハッキリ伝えたはずです(同じドアをくぐれたらでの発言より))

 

藤原 – パーティソング的な匂いを持ってる曲?そういってしまってもいいと思うんですけど。歌ってる内容そんなこと言ってらんないような状況なんですけれども(笑)、そういう曲に対する先入観っていうのが今あまりよろしくない状況にあると思うので。そういう意味ではリスキーでもあるなと今でもおもいますけど。でも圧倒的に伝わるでしょう、おそらく。そのための10曲分の物語があるとおもいます、とりあえず昨日までのことは棚に上げてワッと騒ごうぜっていうような、無責任な響きを持っているわけじゃないし。そういう風に取られたくないんですよね。

2004.08 ROCK’IN ON JAPAN 

関連記事:増川弘明 vol.2 BUMP OF CHICKENのギタリストとしての歩み


藤原さんの増川さんに対する想い

星は廻る 世界は進む おいてけぼりの心の中に

fire signの歌詞には<星は廻る 世界は進む おいてけぼりの心の中に>というフレーズがあります。これは藤原さんの目に映った増川さんの姿をそのまま表現しています。

 

汚れた猫が歩いてく「行き」の道か「帰り」の道か
支えてきた旗を 今まさに 引き抜こうと決めた人がいる

 

2番の歌詞、<汚れた猫が歩いてく「行き」の道か「帰り」の道か> は増川さんの自分のどちらにもつかない優柔不断だった様子、そして<支えてきた旗を 今まさに 引き抜こうと決めた人がいる>は一旦脱退を決めたのだとも受け取れます。

 

詞の真意は作者しかわかりませんし、解釈は聞き手に委ねられると思います。私の言うことが正解だとは思いませんが、曲の最後の歌詞は悩める増川さんに対する藤原さんの気持ちが現れているのは間違いないでしょう。

 

“歌うように 囁くように 君を信じて待ってる”

 

増川さんの想い

fire signが誕生日に贈られた曲だということは幅広く知られていますが、アルバム発売当時は作曲経緯については全く触れられてきませんでしたバンド内のことについて外部に話したくないと言った気持ちや、増川さんの中で「自分贈られた曲だ」と胸を張って言えなかったのかもしれません(歌詞の内容を見たらすぐに脱退について勘ぐられますし)

 

でも夏のイベント、ツアーと計40本ほどのライブをこなした後の2004年12月12日幕張メッセのライブでは1万5000人の前で「この曲は藤原が去年の誕生日にプレゼントしてくれた曲です」と増川さんが自分でMCをしています。この時には胸を張って「自分のことを歌った唄だ」と言えるようになりました。

 

プレゼントされた1年後にこの曲を一緒に演奏できてよかったですね。



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