増川弘明 vol.2 – BUMP OF CHICKENのギタリストとしての歩み – *2018.05.12更新

以前書いた記事 増川弘明 vol.1 – ギター教室での特訓 – に足を運んでくださる方が多く、Google検索すると「増川 ギター下手」とサジェストが出てくるので、みなさん増川さんのギターの腕前に関心があるようです。

結論から言うと、今の増川さんは十分に上手いギタリストです(定義の問題ですが、アマチュア以上です)。確かにインディーズ〜メジャー初期まではお世辞にも上手いとは言えませんでした。それでも練習や意識の変化をきっかけに、今ではBUMP OF CHIKCENのギタリストとして欠かせない存在になります。

今回は増川さんのギタリストとしての歩みを紹介します。

演奏力の変遷
全員下手だった (インディーズ期)
                      ↓
他の3人が上手くなっていく(ユグドラシル期)
                      ↓
心理的に変化し上達する (ユグドラシル〜現在)




ギターを手にするきっかけ

中学生時代

藤原基央さん、直井由文さん、升秀夫さんを含む4人が中学校の文化祭用に組んだバンド*には増川さんは参加していませんもう1人はメインボーカル・ギター(!)のビートルズ好きの文化祭実行委員長でした。*通称”ハゲバンド”、The Beatles「Twist and shout」「Stand by me」Ladies Room「Get Lost」の3曲を披露した。

エレキギターを家で持つことを許さなれなかった藤原さんはギターを増川さんの家に隠していました。このため増川さんは普段は左利きでしたが、右利きのギターを触るようになるのです。

高校入学前

高校受験後のバンド活動再開とともに、藤原さんは増川さんともう1人のギタリスト(通称”あいつ”)をバンドに加入させます。これが増川さんのバンド加入のきっかけでした(もう一人のギタリストは1年弱でクビになります…)

この時増川さんが購入したギターは、右利き用のエレキギターでした(赤色のストラトキャスタータイプ、画像が現存している)

本来、弦やボディの形が逆に設計された左利き用のギター(レフティー)があるのでそちらを購入するべきだったのですが、藤原さんが隠していた右利きのギターを触っていた影響から、同じ右利き用のギターを購入しました。

左利きの人が右利き用のギターを扱うことは至難の技で、利き手と逆のギターを弾くだけでも増川さんにとっては大きなハンディキャップとなっていたのです。

全員下手だった(インディーズ時代)

インディーズ時代の演奏力

BUMP OF CHICKENは全員が下手でした。当時のライブレポなどを調べると「歌がいいのに、演奏が残念」という感想をよく見ます。

増川さん単独でみても、正直下手だったと思います。コードを間違えたり、曲の出だしのカウントを間違えたりするなど、基本的なミスが多く曲中に不協和音をつくったりしていました。それでも増川さんなりに藤原さんの作る複雑なリフを一生懸命に弾いていました。

藤原さん弾くギターや直井さんのベースは個人レベルでは上手ですが、当時のライブでは正確さよりも勢いを大事にしていたので、平気で間違えていましたし、間違えても勢いでごまかしていました。

ギターソロを弾く藤原さん

インディーズ時代のライブでは、大半のギターソロを藤原さんが弾いていました。歌いながら弾くのは大変なため原曲通りには弾かず、カッティングやブルーススケールを用いたアドリブでごまかすことが多かったです。

主なライブでのギターソロ担当の変化

曲名 インディーズ 現在
リトルブレイバー 藤原 (~1998)  藤原&増川 (1999~)
とっておきの唄 藤原 (~2004) 増川 (2013~)
K 藤原&増川 (~2002.04) 増川 (2002.12~)
リリィ 藤原 (~2002.04) 増川 (2002.12~)
ランプ 藤原 (~2000) 増川 (2001~)
グロリアスレボリューション 藤原 (~2000) 増川 (2001~)

ライブ活動が主体だったインディーズ時代をまとめると、増川さんだけが下手だったというよりも、バンド全体が下手だったのです。

それでも、演奏が下手なのにどんどん売れていくバンドってすごくないですか?それだけ藤原さんの書いた曲が良かったのだと思います。

藤原と増川のギターのレコーディング(THE LIVING DEAD期)

THE LIVING DEADの歌詞カードには曲のレコーディングパートがクレジットされています。

グングニル Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原
ベストピクチャー Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原
続・くだらない唄 Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原 Acoustic Guitar 増川
ランプ Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原 Acoustic Guitar 藤原
K Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原
リリィ Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原
Ever lasting lie Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原
グロリアスレボリューション Backing E.Guitar 藤原&増川 E.Lead Guitar 藤原

レコーディングでは増川さんは簡単なコード演奏を担当、藤原さんは難しいリフやソロを弾いています。藤原さんは天才的なメロディーメーカーでしたし、ギタリストとしても助っ人で勧誘されるほどのテクニックの持ち主でしたので、これは仕方のないことですね。

ライブになると藤原さんが簡単なコード弾きを演奏し、増川さんは藤原さんの弾いたリフやソロを再現するというパート分けになります。これは基本的に結成から現在まで変わっておりません。

藤原さんの作るリフは非常に複雑でギミックが組み合わせっており、普通のパンクバンドやメロコア系バンドが作るギターとは違います。それをコピーするだけでも増川さんはすごいと私は思います。パンク系のギタリストの人が弾こうと思っても弾けないリフです。

インディーズ~jupiterまでは増川さんの演奏力はさほど問題になりませんでしたし、自信もあったのかメディア取材の発言もイケイケでした。

ひとり取り残されていく(ユグドラシル期)

しかしユグドラシルから決定的に状況が変わります。

「曲の求める音」を追求するべきだと考えた藤原さんは、「同じドアをくぐれたら」のレコーディングで3人のメンバーを突き放します。今まで”仲良しこよし”でやってきた音楽活動ではなく、よりミュージシャンとして深い境地へ達するために「曲の求める音」の演奏をする”覚悟”を3人に求めたのです。これ以降「ギルド」や「車輪の唄」では藤原さんは直井さんと升さんのリズム隊のアイデアにNGを出すなど、“曲第一主義”を実践してきます。

これはメンバーへの手向けの曲ですね。 – 藤原- 

直井さんと升さんはその要求に応えましたが、増川さんは到達できませんでした。単純に技術不足によるものです。このため、増川さんは「同じドアをくぐれたら」「embrace」の2曲のレコーディングには参加することができませんでした。

その後、増川さんは留年・退学や他にもプライベートの問題も抱え、脱退も意識するようになります。しかし藤原さんから誕生日にfire signを贈られ、覚悟を決めた増川さんはバンドに残ることを決意します。(ちなみにユグドラシル以降のインタビューでは、レコーディング関係の話にはほとんど発言しないようになり、かなり控えめになります。)


BUMP OF CHICKEのギタリストとしての覚悟(ユグドラシル以降)

友達との遊びの延長線上ではじまった「BUMP OF CHICKEN」というバンド。ユグドラシルの頃にはすでにその存在意義は変わっていました。「曲の求める音」、「曲の理想とする形」を体現するためのバンドとして、そしてメジャーアーティストとして各メンバーに責任が生まれてきたのです。

覚悟を決めた増川さんは、バンプのギタリストとしての自覚を真に持つようになります。その現れとして、2006年頃からギター教室での練習を開始しました。プロのギタリストが、ギター教室に通うというのはそれ相応の覚悟が必要だと思います。増川さんは、プライドよりも「曲の為に自分ができること」を優先したのです。

上の記事で詳しく書いているのでここでは説明を省略しますが、ギター教室での訓練が効果を発揮したのか、近年のライブでは増川さんのギターが格段に上達します。

ギタリストとしての成長(現在)

原曲版ソロ(藤原レコーディング) 2:37〜

ライブ版ソロ(増川考案) 2:30〜

上記のHello, world!!のアレンジソロでも見られるように、近年ますますギタリストとしての独自の持ち味を発揮するようになっています。原曲通りに弾くのが難しかったか、ソロの弾きやすさを優先してか、自分なりのアレンジを加えています。

2012年のGOLD GLIDER TOURのBlu-rayを観ると、HAPPYやグッドラック、ゼロでも増川さん考案のギターソロ(アレンジ)を披露しています。インディーズ時代にノーヒットノーランという曲でアレンジソロを弾いていた時は、お蔵入りしてしまったこともあった増川さんのアレンジですが、今ではもう胸を張って披露されていますね。

ギターソロだけでなく、曲中の目立たないのリフの再現性もあがっており、藤原さんは増川さんにギターを任せる範囲が多くなりました。おかげで藤原さんがギターに触らずボーカルに集中して歌う場面も多くなりました。

また「流星群」のレコーディングでは藤原さんのディレクションの下、曲中流れるリフを弾いています。それまでレコーディングではコードしか演奏していなかった増川さんが、リフを担当するようになったのです。




※2018年3月追記

CHAMAさんのTwitterで投稿された写真(2018年3月13日)を見ると、レコーディングやライブで演奏するギターパートをドレミ出版社の「ギター・タブ・ノート」というギター用ノートに記録していることがわかります。

これまで藤原さんが弾いていたレコーディングパートをどのように増川さんが覚えているかは不明でしたが、このような専用ノートで記録しているんですね。

ギター・タブ・ノート [A4] 48ページ (ドレミ楽譜出版社)

一般に発売されているオフィシャルスコアは写譜師という専門職が記譜しているので、実際に弾いているパート、押弦の位置と異なったりします。このノートには増川さんと藤原さんだけの本物のギターの弾き方が記載されているんでしょう。

まとめ

最初に述べた通り、私は増川さんはBUMP OF CHICKENに必要なギタリストだと思います。必要、不必要ではなく藤原さん、直井さん、升さん、増川さんの4人でBUMP OF CHICKENなのです。

むしろ目立とうとする超絶テクニックを披露するようなギタリストはバンプオブチキンには要りません。藤原さんの書く曲を解釈し、メンバーと呼吸を合わせて演奏する能力がなければBUMPのギタリストは務まらないからです。そしてそれを果たせるのは世界に唯一、増川さんだけです。

以上、増川さんのギタリストとしての歩みを紹介しました。ライブだけでなく、CDを聴いて増川さんがレコーディングした音を探しながら聴いてみるのもいいのではないでしょうか。

 Photo by J. Schreier