embrace:基本情報作詞作曲:藤原基央
作曲時期:2003年8月16日以前
録音時期:2003年秋
リリース:2004年8月25日 『ユグドラシル』
ライブ初披露:2003年8月16日
「embrace」はBUMP OF CHICKENのアルバム『ユグドラシル』に収録されている楽曲です。ミドルテンポの優しい曲調と、ボーカルの藤原さんが歌う〈腕の中へおいで〉という包容的なサビは聴く人に安心感を与えてくれます。
その一方でこの曲がレコーディングされた時期は藤原さんとバンドメンバーは疎遠だったと言います。この優しい曲に隠された、バンド内の葛藤と成長を紹介します。
Contents
『ユグドラシル』制作初期の曲
4th Album『ユグドラシル』「曲の求める音を奏でる」を至上命題に制作されたアルバム。前作「jupiter」に比べサウンドは精細かつ洗練され、BUMP OF CHICKENの制作活動の根幹となる理念を体現した最初の1枚。
『ユグドラシル』収録楽曲の中で藤原基央さんが最初に書いたのは「embrace」と「同じドアをくぐれたら」の2曲です。
2003年の春先〜初夏、「embrace」は自宅でギターを弾きながら大声で歌って作られました。
2003年前半の主な活動
2~3月 | 『ロストマン/sailing day』プロモーション活動 | embraceを書く? |
Space Shower TV主催 MVA受賞式ライブ at 武道館 | ||
5~6月 | 全国ツアー「NINJA PORKING」開催 | |
8月 | 夏フェスで新曲”エンブレイス”初披露 |
2003年前半はユグドラシル制作は本格的にはスタートしておらず、主にプロモーション活動とツアーを行なっていました。
藤原基央とBUMP OF CHICKENの疎遠
2003年はツアー後、制作期間に入りメディア露出が少なくなった。2003年後期メンバーを捉えた貴重な1枚。
仲が良いイメージの強いBUMP OF CHICKEN。ツアーを終えて作曲活動をしている頃は、藤原さんとバンドの間に距離がありました。
藤原 うーんと…バンドとはちょっと疎遠でしたね。そんな記憶はありますね。ま、他のメンバーがずっとスタジオに入ってて、俺は曲を作ってたっていうのもあるんですけどね。
2003〜2004年にかけてメンバーの間では色々なことが起きていており、藤原さんも「個人レベルで色々良くない事があった時期」と形容しています。
増川の脱退問題の真相
embedded from www.bumpofchicken.com
ネット上で噂になっている「増川脱退」の話はあながち嘘ではないと思います。私見ですが、それについては「fire sign」の記事で書きましたので、気になる方は読んでみてください。
メンバーが増川さんの学業について議論したのか、あえて議論しなかったのかは不明ですが、“BUMP OF CHICKENは前に進み続ける”ということは決まっていたようです。
他にも増川さんのけっこn…ケフンケフン、プライベートな出来事も同時期にあったようで、「増川さんがバンドとどう向き合うのか」という問題があったことは十分考えられます。
「温もり以外は信用してない」
Photo by Bev Goodwin
藤原さんは「embrace」の歌詞ついて次のように語っています。
藤原 ”ほんとに温もり以外は信用してないところがあります、僕は。それ以外のものは、何か落とし前をつけないと信用出来ない部分がありますね、やっぱり。だから電車に乗るっていう作業。俺がここにいていい理由。それは俺がちゃんとお金を払って切符を買ったから、っていうことで信用出来ます。温もり以外のものは、そうやって信用するしかないです”
「自分がここにいていい理由」を考えたことあるでしょうか。場違いな雰囲気の場所に入ってしまった時の後ろめたさのような経験はありますが、普段何気なく生活している時に、自分がそこにいることは当然の権利として気にも留めないことが多いと思います。
しかし藤原さんは日常の中で疑ったことのない関係性を問いつめ、対価・代償として何かを支払わなければ、自分がそこにいていい理由にならないとしています。
2003年暮れに「ギルド」の作詞をする際、「人間という仕事をするためにはライセンス(資格)が必要なのか」を考えた藤原さん。「当たり前」や「当然」ということを疑うコンセプトが似ていますね。
藤原さんは高校中退後、「学校に行かないなら働いて家賃を納めなさい」と母に5万円の家賃を求められ、その関係性が嫌で上京することになった過去があります。上京後も知人の家を転々とし、ギリギリ牛丼一杯食べれるかどうかの所持金で真冬の公園で一晩をしのいだこともありました。
このような若い時の経験が、藤原さんにとって「権利」「理由」「落とし前」という発想を強くしたのでしょうね。
「embrace」と「K」との関連性
Photo by SandyManase
「embrace」が「K」とリンクしているという噂があります。ただし、藤原さん本人がそれについて言及したことは一切ありません。※ファンの間で広まった噂です。
「K」は『THE LIVING DEAD』(2000年)ののの収録曲で「絵描き」と「黒猫」の物語です。
黒猫と絵描きの成り行きを物語調に客観的に書いた曲が「K」、ボロボロになって街を彷徨っていた黒猫を見つけた絵描きの主観で書いた曲が「embrace」という噂です。噂です、ウワサ。
確かに<隠れてないで出てこいよ>や<腕の中へおいで>は猫を見つけた時の描写と考えられますね。腕の中へ入るくらいのサイズなので、あり得ると思います。
そして何より<君は僕に見つかった 首輪のない姿で>は猫を想像させます。「K」に登場する猫とは断言できませんが、あながち的外れではないですし、そのような解釈があったほうが藤原さんのリンクし合う世界観が見れて面白いともいます。
音楽雑誌の誤報と訂正文掲載
夏フェスで披露された後、とある音楽雑誌が「仔犬との温もりを書いた曲」と確定的なように記載したことで訂正記事と謝罪文を公式ホームページで発表したことがありました。少なくとも仔犬ではないですね。
私は解釈は人それぞれだと思っているので、こんな説もあるよ、というふうに流して読んでください。
歌詞変え
「embrace」は2003年8月の夏フェスで未発表曲として演奏されています。演奏時はアルバム収録されるものと2番Bメロの歌詞が変わっていました。
2003.08.31 RUSH BALL 2003
ユグドラシル収録版(2004年)
呼吸の音がする 柔らかい匂いもする
全てこの手のひらに 集めて閉じ込めるよ
初披露版(2003年)
呼吸の音がする 柔らかい匂いもする
願わくば手のひらにも ひとつ情報が欲しい
2004年12月12日PEGASUS YOU 幕張メッセ最終日でも初披露時の歌詞変えが行われています。
2004年12月12日 PEGASUS YOU 幕張メッセ (2004年)
呼吸の音がした 柔らかい匂いもした
願わくば手のひらにも ひとつ情報が欲しい
その後、2005〜2012年にかけて暫くはアルバム収録版の歌詞で歌われていましたが、2015年のSpecial Liveでは久しぶりに初披露時の歌詞が歌われました。
譜面で理解しようとした直井由文
embedded from www.bumpofchicken.com
直井由文さんは「スノースマイル」までは感覚でベースを演奏していました。特徴的な動き回るベースラインは藤原さんのボーカルのメロディラインと音がぶつかることもありました。
しかし「embrace」からは、“曲の求める形”を優先し目立ちたい気持ちをぐっと押さえて曲の重心をしっかり支えるベースプレイをするようになります。
直井 – やたら話をしたのを覚えてる。もっと後ろで重たく鳴らしたいとか。感覚ではなくて、それをちゃんと音符で。(中略) より音楽を深く理解した曲第一弾。ほんと、ベースの「ベ」の字をようやく理解したんだろうなっていう1曲目ですね。
レコーディング不参加の増川弘明
ギターの増川さんは「embrace」「同じドアをくぐれたら」のレコーディングには参加していません。単純に技術力不足と当時抱えていたバンド内の問題によるものだと思われます。
jupiter〜ユグドラシル過度期のサウンド
『ユグドラシル』収録曲の中ではアレンジや音作りは全編通してシンプルで、「jupter」寄りのサウンドの印象を受けます。
藤原さん自身、アルバム発売後のインタビューで「embrace」を録り直したらもっとよくなる旨を述べています。
6/8拍子の曲は発表音源では初めての曲です(『バイバイサンキュー』は3/4拍子)。ベースの直井さんにとってはクリック(リズムキープ用の電子音)をならして練習した最初の曲となりました。また、メジャーデビュー後に初めてレギュラーチューニングでレコーディングされた曲でもあります。
バンプにとって色々な”初めて”が含まれている曲なんですね。
ライブ演奏記録
『ユグドラシル』収録曲の中では比較的多く演奏されています。「車輪の唄」「ギルド」「sailingday」についで多い演奏回数です。
以上、簡単ですがembraceについて紹介しました。またライブでこの歌を演奏してほしいですね。