4th Album 『ユグドラシル』

楽曲解説「車輪の唄」 新しいバンドアンサンブルに挑んだ曲

4th Album 『ユグドラシル』

「車輪の唄」はBUMP OF CHICKENのアルバム『ユグドラシル』に収録されている楽曲です。

自転車に乗る二人を描いた歌詞、オーガニックなサウンド、バンプの楽曲でもファンに人気の1曲です。

名曲「車輪の唄」が生まれたきっかけ、歌詞の意味、ライブバージョンの演奏について解説します。



「車輪の唄」基本情報

作詞・作曲 藤原基央
作曲時期 2003年夏〜冬  *「レム」と同じ日に作曲
録音時期 2003年冬〜春
リリース 2004年8月25日 アルバム「ユグドラシル」
2004年12月01日シングル「車輪の唄」

2013年7月3日ベストアルバム「BUMP OF CHICKEN I [1999-2004]」

「車輪の唄」の意味

「車輪の唄」の”車輪”とは自転車を意味します。シングルCDのジャケットも自転車(マウンテンバイク)に乗るメンバー、CD盤面も自転車のホイールになっています。

 

「車輪の唄」作曲エピソード

「車輪の唄」はボーカル・ギターの藤原基央さんによって作曲されました。この曲のきっかけは同じアルバム『ユグドラシル』に収録されている「レム」が関係しています。

「レム」を書いた夜に生まれた曲

2003年夏〜冬、藤原さんは自宅で「レム」を書きます。ディレクターに連絡して翌日のデモ制作が決まり寝ようとしていました。

藤原 – 朝からこの暗い曲 (「レム」)と向き合ってたんで、疲れたなーって。暗かったんでジャンジャカ弾いてたんですよ (中略) それで書けたのが「車輪の唄」だったんですよね。

2016年2月13日 NHK「SONGS」

しかし「レム」の歌詞の内容が重たく、そんな曲をどう聴かせるか考えていました。眠たいながらも「レム」のコード進行をジャカジャカ弾きながらメロディーが付いたのが「車輪の唄」として完成します。

藤原 – 「レム」をバンドでやるとどうすんのかなとか(中略)ギターをジャカジャカ弾いていたら、もう1曲書けそうだなってなって。もう1曲書けちゃったのが「車輪の唄」だったんですね。

2016年2月13日 NHK「SONGS」

藤原さんは「レム」「車輪の唄」の2曲に対して、作曲にかけた時間の長さ、曲調など色んな面において対照的な曲だと述べています。

*イントロ・Aメロのコードは「レム」を踏襲しているが全く同じというわけではない

「車輪の唄」の歌詞の意味

藤原基央さんが「車輪の唄」の歌詞の内容にインタビューで言及したことはほとんどありません。歌詞を読んだドラムス・升秀夫さんが、藤原さんに電話で「詩を読んだら叩けなくなった」と伝えたというエピソードが残っています。

「耳をすませば」と「車輪の唄」

ファンの間では「車輪の唄」の歌詞が映画「耳をすませば」をモチーフにしているのではないかという声があります。これに関してメンバーが言及したことはありません。

「車輪の唄」に出てくる2人乗りした1台の自転車、<坂を上りきった時 迎えてくれた朝焼けが綺麗すぎて>と言う歌詞があります。「耳をすませば」には天沢聖司と月島雫が早朝に2人乗りをして坂道を上り、朝焼け見ると言うシーンがあります。確かに似ていますね。

「車輪の唄」制作エピソード

新鮮なリズムの弾き語りデモテープ

藤原 – ギターでそういうノリを出すつもりだったんですけど、もうかたくなにそういう感じで弾いてたよね。

 

「そういうノリ」というのはカントリースタイルの裏打ちのリズムを指しています。CD音源でもギターとドラムの裏打ちのリズムサウンドがグルーヴの中心になっています。

車輪の唄イントロ(アコースティックギター)

 

当時はシーケンサーでアレンジを加えたデモ制作をすることが多かった藤原さんですが、「車輪の唄」はアコースティックギターの弾き語りでデモ音源を作成しました。

別次元の演奏スタイルを求めた「車輪の唄」

藤原 – その当時のバンドのスキルとは、かけ離れた世界に存在してましたね。て言うのはもう演奏レベルとかではなくてプレイスタイルそのものがと言うことです。

出典:ROCKIN’ ON JAPAN 2004年9月号

 

BUMP OF CHICKENの基本理念となる「曲の求める音を鳴らす」という考え方によって完成されたのがアルバム『ユグドラシル』でした。単なる幼馴染みバンドから飛躍し、音楽を届けるための覚悟を問われた作品です。

 

升 – (以前は)できる範囲内で目指したっていう感じだったんです。曲の姿を最大限に出すために。今回はもうそういうのすらなくなって。できようができまいが、もうやるっていう。

出典:ROCKIN’ ON JAPAN 2004年9月号

 

その理念のもと、「車輪の唄」ではこれまでのレコーディングでは使用していない楽器、演奏スタイルが使用されました。

「車輪の唄」で使用された楽器・演奏法
藤原基央:マンドリン*  「同じドアをくぐれたら」で初使用
直井由文:フレットレスベース
升秀夫:ブラシ奏法

藤原と何度も確認した直井のベースライン





特にベーシストの直井由文さんは「車輪の唄」のレコーディングに苦しみました。前作「jupiter」まではフィーリングでベースを弾いていましたが、「車輪の唄」では徹底的に理論的に考えてベースラインを考える必要があったからです。

ベースラインだけでなく「曲の求める音」を追い求めた結果、機材にもこだわり、弾くのが難しいフレットレス・ベースを使用します。本番レコーディングも藤原さんが隣にベタ付きで付き添うという珍しい形で行われました。

 

直井 – 曲の中でのベース担当としての、和音構成員としての責任をなんとしてでも取ろうっていう意識だったと思うんですけど。(中略) 少しでもズレてると歌をいくらきれいに入れても歌がきれいに響かない。

Talkin’ Rock! 2004年9月号

 

楽曲に対して責任を取るという強い理念を持っています。先程の升さんのインタビューと同じで、『ユグドラシル』のインタビューはBUMP OF CHICKEN全員に強い覚悟が現れています。

 

トーキンロック!2004年9月号

背景を知って「車輪の唄」を聴くと、ギター、ベース、ドラム、全ての音に物語を感じますね。

アルバム版とシングル版の違い

シングルカットされた「車輪の唄(Single Edit)」ではコーラスが挿入されています。具体的には2番Aメロ(1:45〜)からBメロ、サビあたりです。この他にも微妙なミックスの違いがあるようですので、違いを探すのも楽しみのひとつですね。

CDジャケットの撮影ロケ地

東京都世田谷区太蔵にあります。表ジャケットは逆向きの下り坂です。撮影エピソードとしてはマウンテンバイクに乗った4人をカメラマンが追いかけながら走る撮影だったため「何往復も坂を上り下りするカメラマンが心配だった(笑)」とラジオで語っています。



「車輪の唄」MV

  PVの衣装や楽器は「森の音楽家」をイメージさせます。なんだか「耳をすませば」の1シーンを彷彿とさせますね。「車輪の唄」のPVは初めて別撮りの役者さんを起用しました(「天体観測」はメンバーと一緒に撮影)。

 

ライブバージョンのイントロの変遷

ライブ版では藤原基央さんのギターと升さんのドラムのアレンジイントロが付け加えられます。藤原さんの弾くコードはツアーごとによって異なります。ということで早速弾いてみました。

 

2004年 PEGASUS YOU「車輪の唄」イントロ 

 

2016年 BFLY「車輪の唄」イントロ 

 

2019年 aurora ark「車輪の唄」イントロ 

(演奏 by 管理人)

 

2019年では4弦3フレットをルート音にして半音下げFの成分(セブンス)を入れることで、よりカントリー調のイントロになっています。ざっくり録ったのですが、きちんと録り直して年代ごとの解説記事を書きたいと思います(多分一生書かない…)

ライブ演奏記録

演奏回数 90回
演奏頻度 ★★★★
初披露 2004年09月17日「MY PEASUS」ZEPP TOKYO
最終演奏 2024年12月07日「Sphery Rendezvous」東京ドーム
演奏ツアー 2004年「MY PEGASUS / PEGASUS YOU」*全公演演奏
2006年「run rabbit run
2012年「GOLD GLIDER TOUR」*アコースティック
2013年「WILLPOLIS」*全公演演奏
2016年「BFLY」*全公演演奏
2019年「aurora ark
2024年「Sphery Rendezvous
演奏機材


藤原基央 – Sonic Stratocaster (黒)
増川弘明 – Gibson Les Paul Standard Historic Collection*
直井由文 – Sonic Jazz Base Chama Blue (初号機)
アコースティック
藤原基央 – Gibson J-45
増川弘明 – Martin D-28
直井由文 – 

「車輪の唄」はリスナー認知度も高く、ツアー2本に1本程度の割合でセットリスト入りしています。BUMP OF CHICKENのライブでは頻度が高い楽曲です。

ステージで黒ストラトを初使用した楽曲

ストラトキャスターを弾く藤原。ちなみにこのメイプル指板のストラトは主にレコーディングで使用されている機材で、ライブで使用するストラトはローズ指板。

2004年「MY PEGASUS」に向けたリハーサルスタジオではレスポールスペシャルを弾いていました。「車輪の唄」と「ギルド」の音のニュアンスが表現できないため、ステージ初のストラトキャスター使用を決めました。

曲のBPMをツアー途中に変更した事がある

「MY PEGASUS」ツアーではもともCD音源と同じ速さで演奏していました。しかしライブの生音では伝わり方が変わり、よく言えば疾走感、悪く言えば落ち着いて聴いてられないサウンドだったのです。2004年11月の青森公演が終わり、12月の幕張メッセ追加公演の間に話し合われ、曲のスピードを落として演奏することに決まりました(同期SEも録り直した可能性がある)。

ちなみに「GOLD GLIDER TOUR」で披露されたアコースティックバージョンではCD音源と同じ速さで演奏されています。この辺りの細かいアレンジの変え方からも「車輪の唄」に対するこだわりが伺えます。

幻の増川のコードワーク

あまり知られていませんが「車輪の唄」でのギタリスト・増川弘明さんのパートも変化しています。初披露の「MY PEGASUS」では2番途中からコードワーク的なリフ(藤原さんのアレンジイントロに近い音)を弾いていました。最終公演の「PEGASUS YOU」から弾かれなくなったため幻のアレンジとなっています。

久しく2番Aメロは弾いていなかったですが、2015年以降には2番Aメロにアルペジオを入れています。時代とともに曲の表情を変化させるのもバンプならではですね。

 

「車輪の唄」ライブ映像収録作品

「BUMP OF CHICKEN STADIUM TOUR 2016 “BFLY” NISSAN STADIUM 2016/7/16,17」
「「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark TOKYO DOME」

この記事を読んで「車輪の唄」の新しい聴き方が見つかれば幸いです。読んでいただきありがとうございました!