「同じドアをくぐれたら」はBUMP OF CHICKENのアルバム『ユグドラシル』収録曲です。
藤原基央さんは「同じドアをくぐれたら」を”メンバーへ手向(たむ)けた曲”として書きました。背景にはバンドの大きな転換期を迎えており、それは”BUMP OF CHICKEN”と”メンバー個人”に関する根源的な問題でした。
「同じドアをくぐれたら」— これほど藤原基央さんの想いが伝わるタイトルがあるでしょうか。バンド史において欠かせない曲の制作背景を解説していきます。
「同じドアをくぐれたら」基本情報

アルバム「ユグドラシル」
| 作詞作曲 | 藤原基央 |
| 作曲時期 | 2003年夏〜秋 |
| 収録作品 | 4th アルバム「ユグドラシル」 |
| リリース日 | 2004年8月25日 |
| ライブ初披露 | 2004年9月17日「MY PEGASUS」ZEPP TOKYO公演 |
| ライブ最新披露 | 2019年11月3日 「aurora ark」東京ドーム公演 |
「同じドアをくぐれたら」作曲エピソード

名盤『ユグドラシル』のはじまりの1曲
2003年5〜6月、BUMP OF CHICKENはツアー「NINJA PORKING」開催後、楽曲制作期間に入ります。
2003年当時、藤原基央は金髪にしてツアーや夏フェスを回った。「ROCKIN’ON JAPAN」2003年3月号(画像引用元:amazon.jp)
藤原さんはこの時に持っていた数曲分のアイデアを1曲ずつ形にしていき、最初に「同じドアをくぐれたら」を書き上げます。
指弾きのギター・フレーズから広げた作曲
「同じドアをくぐれたら」は藤原基央さんによる指弾きのギター・フレーズから着想を得て生まれました。そのフレーズがこちらです。
同じドアをくぐれたら pic.twitter.com/dnKGGh84bv
— 鳥のつぶやき (@memo_bump) July 21, 2019
このフレーズはサビの裏で弾かれており、コード進行とメロディを同時に奏でる非常に洗練されたアルペジオです。藤原さんはこれにAメロ、Bメロをつけて1つの楽曲に仕立てます。
「同じドアをくぐれたら」歌詞の意味
藤原さんは出来上がった曲に歌詞をつけていきます。
「天秤」と「選択」をモチーフにした歌詞
同じドアをくぐれたら 0:48〜
手に入れるために捨てるんだ
揺らした天秤が掲げた方を
引用元:同じドアをくぐれたら / 藤原基央 (2004年)
藤原さんはインタビューで「同じドアをくぐれたら」は “天秤” をモチーフにして歌詞を書いたと明かしています。
藤原基央の描いた “天秤” DVD『ユグドラシル』裏面 (画像引用元:amazon.jp)
藤原 – 天秤が書きたかったんですよ。二択を迫られる状況になった時に、人は天秤にかけると思うんです。
天秤は重さを測る器具です。物事の比重を無慈悲に突き付ける天秤、藤原さんはその本質に興味を持ちます。2つのどちらかを選択しなければいけない時に、互いの背景情報や理由などを一切気にせず、その重さのみで判断する点に注目しました。
また、その軽重の表現にも藤原さんは興味を持ちます。
藤原 – ボクシングって買った方が腕を上げるじゃないですか。でも天秤は負けた方が上がるんですよ。それっておもしれえなぁって思って。
引用元:テレビ東京系「JAPAN COUNT DOWN」
意味の軽い方を晒し上げるかのようなスタイルに、藤原さんは何かを感じたのだと言います。なぜ藤原さんは「選択」や「天秤」をモチーフにした楽曲を書いたのでしょうか。
メンバーに手向けるつもりで書いた「同じドアをくぐれたら」
Photo embedded from Pinterest.com
藤原 – これはメンバーに言ってないですけど、ちょっと手向ける気持ちはありました。
手向るとは、誰かとの別れの際に使う言葉です。
2003年当時、BUMP OF CHICKENはいくつかの問題を抱えていたといわれています。その問題のヒントとなる発言をいくつかピックアップしてみます。
“友達”と”BUMP OF CHICKEN”の狭間で揺れる葛藤
千葉県佐倉市出身の幼馴染4人で結成したBUMP OF CHICKEN。中学の文化祭用のバンドを母体としてはじまり、4人はバンド活動を《何もない地元での、遊びのひとつ》と考えていました。

主に藤原基央さんが音楽面を牽引する形で、結成5年で「天体観測」の大ヒットにまで繋がります。4人にとっての音楽は《遊びのひとつ》ではなく、真正面から音楽と向き合う精神性、そしてスキルが求められるようになります。
メンバーに音楽家としての覚悟を求めた
藤原さんはさらに深く音楽を表現するため、残りの3人のメンバーに対して強い覚悟を求めます。
藤原 – 「同じドアをくぐれたら」を書いたときにもう意図的に、ちゃんと覚悟しなきゃプレーできねえような曲にしてしまえと思って。
ROCKIN’ON JAPAN 2004年8月号
藤原さんは当時を《バンドと疎遠だった》と語っています。
それまでのBUMP OF CHICKENの楽曲制作では、藤原さんが全体をリードしつつも、各メンバーが好きに解釈して好きにプレイをしている側面が少なからずありました。全員で曲の意思を統一し、目立つような自己満足なプレーではなく、曲の求める音を追求する姿勢が必要と藤原さんは考えるようになります。
《曲の求める音を表現するために手段を選ばない》という考え方は、「同じドアをくぐれたら」並びに『ユグドラシル』制作セッションを経て、今日まで続くBUMP OF CHICKENの基本理念となります。
増川弘明のレコーディング不参加
・「人としての問題」(増川弘明)
・「いろいろ言えないプライベートのことが色々あった」(藤原基央)
BUMP OF CHICKENには他にも問題を抱えていました。上記発言から、リスナーの間ではギタリスト・増川弘明さんの結婚、大学中退が原因だと噂されています。

増川 – 俺は….アルバムのレコーディング始まって、レコーディングに俺の音は入ってないんですよ。参加してないの。
当時、増川さんはBUMP OF CHICKENの活動と並行して中央大学理工学部に通う大学生でした。学業のスケジュールの都合上か、演奏力不足か、「embrace」「同じドアをくぐれたら」の2曲のレコーディングに参加していないとインタビューで告白しています。
この時期、増川弘明さんはバンド脱退を考えたという噂が流れましたが、インタビューなど明確なソースがなく根拠は不明です。
しかし2003年後半のインタビューから極端に話す数が減っていること、誕生日に贈られた「fire sign」の歌詞の内容から、増川さんの脱退検討はあながち噂ではないと思っています。
BUMP OF CHICKENが前に進むための唄

同じドアをくぐれたら 1:33〜
もう気づいたろう
僕に君のドアは見えない
引用元:同じドアをくぐれたら / 藤原基央 (2004年)
藤原 – ドアをくぐりたいんであれば何てことはない、握っている手を離して行けばいいという歌です。それが出来ないのであれば2人して留まってるしかない。鍵がもらえるのは手のひらが空の時だけ、という歌なんです。
《君のドア》や《それぞれの鍵》という表現で、そのドアを選択するのはメンバー本人しか選べないことを示唆しています。
そう伝えておきながら、藤原さんはハッキリと自分の気持ちを次の一行で伝えています。
同じドアをくぐれたら 1:50〜
同じドアをくぐれたらーーー
と願っていたよ
引用元:同じドアをくぐれたら / 藤原基央 (2004年)
藤原 – だからメンバーには言わなかったけど……そういう気持ちはありましたね。なんか『いろいろあったけどまあ俺らバンドじゃん。俺ら4人でまあ一緒にこの曲やろうよ』みたいな感じ。『やればわかるでしょ?結局これしかねえんだからさあって。
ROCKIN’ON JAPAN 2004年8月号
「BUMP OF CHICKENのドア」を進むには、今までの仲良しごっこではいかないでしょう。 そうだとしても、藤原さんは4人でBUMP OF CHICKENの未来を続けたいと願っていました。
「同じドアをくぐれたら」制作エピソード
2003年秋、「同じドアをくぐれたら」「embrace」の2曲のレコーディングを行います。
バンド形態よりも音楽家集団としてのアンサンブル

藤原の愛用するシーケンサー YAMAHA QY-70
「同じドアをくぐれたら」はYAMAHA製QY70を使ってデモ音源化されました。デモテープの段階で精緻なアンサンブルはバンドの形態を超えた楽曲になっており、藤原さんはメンバーに車の移動中にこの曲を聴かせます。
藤原 – だからもうね、僕らみたいな演奏形態のバンドがやる曲ではないんですよ。スケールというか。
直井 – 始めに聴いたのは交響楽団とかそっちの方で表現するものだなって思った。
QUIP MAGAZINE VOL.38
メンバーは音楽形態や編成の概念を取っ払って、音楽と本能的に向かうようになっていきます。『ユグドラシル』の基本理念となる「曲の理想を追求」という姿勢が現れてきました。
マンドリン、ブズーキを初使用
藤原所有モデルのマンドリン Gibson A-Jr 1925 Photo embedded from Twitter@12fretguitar
「同じドアをくぐれたら」の壮大な世界観を表現するため、藤原さんは新たにブズーキとマンドリンの2つ楽器を使用します。
藤原さんは民族楽器のチューニングを研究するうち、ギターのオープン・チューニングに辿り着きます。
藤原 – 要するにギターから見れば変則チューニングなんですよ、マンドリンとかブズーキとか。だから、チューニングの違う楽器に触れて、今度はギターも変則チューニングで弾いたりしましたね。
藤原さんはこのオープン・チューニングを利用して、「asgard」「midgard」「fire sign」「Ever lasting lie ~acoustic version~」のギターを録音しています。
「同じドアをくぐれたら」でブズーキとマンドリンの使用がなければこれらのフレーズは生まれなかったともいえるでしょう。名盤『ユグドラシル』の基本理念である「曲の理想の音」を追求する基礎となった1曲です。
「同じドアをくぐれたら」ライブ演奏記録
Embedded image from Twitter@boc_chama
| 演奏回数 | 37回 |
| 演奏頻度 | ★☆☆☆☆ |
| 初披露 | 2004年9月17日「MY PEGASUS」ZEPP TOKYO |
| 最終演奏 | 2019年11月03日「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark」東京ドーム |
| 演奏ライブ | 2004年「MY PEGASUS」 2004年「MY PEGASUS TOUR FINAL “PEGASUS YOU”」 2004年「BUMP OF CHICKEN LIVE IN SEOUL」 2019年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark」 2025年「RADWIMPS 20th ANNIVERSARY TOUR」(GUEST ACT) |
「同じドアをくぐれたら」ライブバージョン
原曲とライブバージョンでは、演奏終盤のアウトロ部分で異なるアレンジがされています。
『ユグドラシル』収録音源
アウトロ:マンドリン・ブズーキ主体の音にフィードバック成分の多いギター。最後にドラムソロパート1打
2004年(ロングバージョン)
アウトロ:4人による3拍子のセッションとアドリブ。最後まで4人で演奏
2019年(ロングバージョン)
アウトロ:4人によるCD音源の再現、最後にバスドラム・フロアのソロパートで終了
aurora arkツアーで15年ぶりに演奏!
全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 “aurora ark”」で「同じドアをくぐれたら」が15年ぶりに演奏され、ファンの間で話題になりました。
RADWIMPSとBUMP OF CHICKENで合同演奏!
2025年に開催された「RADWIMPS 20th ANNIVERSARY TOUR」横浜アリーナ公演にゲスト出演した際、アンコール曲として「同じドアをくぐれたら」をBUMP OF CHICKEN × RADWIMPSのコラボレーションとして演奏しました!
「同じドアをくぐれたら」ライブ映像作品
| 映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark」 2019年11月3日 DAY1公演(※BONUS収録) |
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以上、BUMP OF CHICKENの「同じドアをくぐれたら」について解説しました。いろいろなエピソードを知った上で聴くと、新たな聴き方ができるのではないでしょうか。





