「sailing day」はBUMP OF CHICKENが2003年に発表したシングル曲です。
映画『ONE PIECE デッドエンドの冒険』の主題歌としてタイアップした「sailing day」。BUMP OF CHICKEN初の大型タイアップに、メンバーは複雑な感情を持っていました。
作曲した藤原基央さんはなぜこの曲に「sailing day」と名づけたのでしょうか。この記事では「sailing day」の歌詞の意味や制作エピソードについて解説します。
「sailing day」基本情報
作詞・作曲 | 藤原基央 |
編曲 | BUMP OF CHICKEN & MOR |
作曲時期 | 2002年9月以降 |
制作時期 | 2002年9月以降 |
収録時間 | 4分03秒 |
収録作品 | 「ロストマン/sailing day」(2003年) 「sailing day/ロストマン」(2003年) 「ユグドラシル」(2004年) 「BUMP OF CHICKEN I [1999-2004]」(2013年) |
ライブ初披露 | 2003年2月28日 映画『ワンピース デッドエンドの冒険』試写会ライブ at ZEPP TOKYO |
タイアップ | 映画『ONE PIECE THE MOVIE デッドエンドの冒険』主題歌 |
「sailing day」の意味
sailing day
発音 [sáiling dày]
1. the day of departure of a passenger ship
「sailing day」とは日本語で「航海日」を意味します。船が港を離れ、大海原へ向けて出港する日のことです。それではBUMP OF CHICKENの4人がどのように「sailing day」を作り上げたのか解説していきます。
映画「ONE PIECE デッドエンドの冒険」主題歌タイアップ
2002年頃、映画「ONE PIECE デッドエンドの冒険」主題歌のオファーがBUMP OF CHICKENに届きます。バンドメンバーは4人とも集英社「週刊少年ジャンプ」と「ワンピース」を愛読しており、内容について熱く語り合えるほど読んでいました。
尾田栄一郎とバンプオブチキン
藤原さん、直井さん、増川さん、升さんのメンバー全員が「ONE PIECE」の愛読者です。珍しくドラムスの升秀夫さんまでもが興奮してワンピース愛を語るほどで、特にベースのチャマさんは集英社の企画にウソップのイラストを本気で書いて投稿していました。
ワンピース・作者の尾田栄一郎さんもBUMP OF CHICKENのリスナーで、インディーズアルバムを所有しているほどでした。交流は現在も続いており、尾田先生主催のたこ焼きパーティーに藤原基央さんが参加したことが明かされています。
実はタイアップを断ろうとしたバンプ
2002年のBUMP OF CHICKEN *Embedded image from Pinterest
「ワンピース」の大ファンであるBUMP OF CHICKENですが、2002年当時はオファーを断ることも考えていました。理由はギター・ボーカルの藤原基央さんが「映画のテーマ」に合わせた曲を書くことに抵抗感を持ったからです。
藤原 – 最初アニメの話がきて、じゃあそのために曲を書こうって気分ではなかったんですよ別に。「何か元気のいい曲一発頼むよ」って感じで。俺らは俺らで、やりたい曲をそのまま作ったら良いじゃんって感じでまとまったのかな。
2003.03.14 MTV 『MTV WORLD CHART EXPRESS』
ストーリーを気にしたり、曲調を気にするのではなく「BUMP OF CHICKENがやりたい曲」を提供することを条件にオファーを受諾します。
「ワンピース」のタイアップよりも「BUMP OF CHICKENの音楽を守る」ことを最優先するという考え、23歳とは思えない藤原さんのストイックさです。
タイアップを嫌がっていた理由
こうして「sailing day」を作曲した藤原さんですが、タイアップしたことで誤解されてしまう不安はリリース時までありました。
自らの連載コラム「藤原基央のインテリ日記(Fujiki)」にさえも、強がりながらその不安を吐露しています。
藤原 – そして、いろいろな誤解を招くであろうことが予想される「sailing day」。この曲、映画のタイアップということでいろいろ(俺らの方向性やその他)不安を感じたりしている。
出典:「藤原基央のインテリ日記」B-PASS(2003年)
ステージ上で自信満々なMCをしたりしている頃の藤原さんですが、これだけ不安な内面を吐露している、なにか予防線を張ろうとしているような文章は珍しいです。
「BUMP OF CHICKENは変わった」「商業バンドになった」と思われるのが本気で嫌だったんだろうと思います。藤原さんは次の言葉をリスナーに向けています。
藤原 – 安心してくれ、この曲は紛れもなく俺の息子だ。余計な先入観は交えず、いつもの様にまっしろけの気持ちで触れてやってくれ。ちゃんとこの子の輪郭をなぞってやってくれ。こいつは着てる服がちょっと派手なだけなんだよ。
出典:「藤原基央のインテリ日記」B-PASS(2003年)
BUMP OF CHICKENの音楽を誰よりも守ろうとしています。当時のバンプのメディア露出の仕方やプロモーションの仕方にも通じるような気がします。
後半の「まっしろけ〜」や「着てる服が派手〜」のくだりは「夢の飼い主」の歌詞を彷彿とさせます。もしかしたらこの時から、歌詞のアイデアがあったのかもしれません。
「sailing day」の歌詞の意味
「sailing day」のサビは「精一杯 運命に抵抗」 という力強い歌詞が印象的です。しかしその前向きさとは裏腹に、藤原さんは「運命への抵抗」について冷静な考え方を持っています。
藤原 – 運命に抵抗したってしょうがないんですよ。どうしようもないんですよ。そういう俺が「sailing day」で運命に抵抗って歌詞を書いてるんですよ。だって、そのほうが楽しいじゃないですか。あがきましょうよ
同時期に書いた「ホリデイ」にも似たようなニュアンスが出てきます。
ホリデイ 0:00〜
失敗しない後悔しない人生がいいな
少し考えてみただけさ有り得ないってわかってる
引用元:ホリデイ / 作詞作曲 藤原基央 (2002年)
運命は変えられないとしても、変えようとする行動や意識に価値があると考えているようです。
ONE PIECEを意識した言葉選び
「sailing day」の歌詞には『ONE PIECE』を彷彿とさせる言葉が出てきます。《舵を取れ》《帆を張った》《財宝》《灯台》、これらの言葉は意識的に使用したと明かしています。
藤原 – こういう状況じゃなきゃ使えねぇ言葉があるだろうって。”灯台”とか”舵を取れ”とかね。「ワンピース』っていう映画の主題歌、そういう背景でしか使えない言葉っていうのがあるじゃねぇかって。
タイアップに懸念を示していた藤原さんですが、やると決めたらタイアップを活かした作詞に挑戦します。
「sailing day」制作エピソード
バンド感のある曲調は「ロストマン」の反動
「ロストマンPV時のモノクロからカラーになる瞬間&金髪藤くんフェチ」という概念。 pic.twitter.com/vD6WJGNnzZ
— バンドマンのあらゆるフェチ (@otetefechi) October 28, 2015
藤原 – これはね、書くのが早かったんですよ。”ロストマン”の後だったから、その反動もあったのかもしれないです。その反動でバンド感がある雰囲気のものを作りたかったんじゃないですかね。
2002年秋、藤原さんは「sailing day」をさらっと書き上げます。「ロストマン」を9ヶ月かけて書いたことで力が抜けてリラックスした状態で、「スノースマイル」「ホリデイ」の後に作られました。
「sailing day」は最初から勢い、疾走感をイメージして作曲されました。これは「ロストマン」がデモ段階からアルペジオや曲構成など細かい設計が決められていたのと対照的です。
藤原のローコードへの響きにこだわり
藤原 – でも、パワーコードでガンガンいけるようなものでないのがいいって、イントロを作ってた記憶があります。
「sailing day」はイントロのコード進行は同じE♭キー楽曲の「アルエ」でも使用されているメロディアスなコード進行です。
平たく言えば、パワーコードとは6~4弦を押さえて歪ませた音で弾く奏法です。ローコードはギターのヘッド側のフレットで1〜6弦の複数の弦を弾き、豊かな和音を奏でる奏法です。
当時最速のBPM195
升 – スピード感とかそういう基本的なものを、すごい大事にしたいなって。ビート感っていうか、始まりから終わりまでこう、走り抜ける感じとか
出典:「B-PASS」2003年5月号
疾走感を意識して制作された「sailing day」は、当時のBUMP OF CHICKENの楽曲の中で最もBPM(テンポ)が速い楽曲です。
速い曲をミリ秒単位で音を合わせるのは至難の業ですが、直前に「スノースマイル」でしっかりとリズムを鍛えたからこそ安定して演奏することができたといいます。
わずかな練習期間で本番REC
練習期間はわずか3-4日間のみで、すぐに本番のレコーディングが行われます。
藤原 – 本番で初めて、みたいなのが多かったりして。ギターの音決めも、エンジニアさんと二人きりでやったり。でも、そういうのが面白かったな
出典:「B-PASS」2003年5月号
「sailing day」PV
撮影場所:千葉県千葉市美浜区幕張メッセ駐車場
2:20
2003年当時の金髪の藤原さんが見れるのは「sailing day」と「ロストマン」だけです!
CDジャケット
ジャケット撮影場所は当時の藤原基央の自宅
「sailing day」の通常盤ジャケットは写真家の蜷川実花さんが撮影しました。撮影場所は当時藤原さんが自宅にしていた中目黒のマンションのベランダといわれています。
embedded from plaza.rakuten.co.jp
2003〜2004年のアーティスト写真もこの時に撮影されています。よく見ると藤原さんの服装は同じです。部屋の奥にはバンジョーとギターが見えます。
「sailing day」ライブ演奏記録
2004年12月「PEGASUS YOU」ライブステージ横からの写真(画像埋込元 excite.jp)
演奏回数 | 72回 |
演奏頻度 | ★★★☆☆ |
初披露 | 2003年2月28日 映画『ワンピース デッドエンドの冒険』試写会ライブ at ZEPP TOKYO |
演奏ツアー |
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「sailing day」はこれまで72回演奏されています。リリース初期の「NINJA PORKING」ツアーではライブ1曲目に演奏されていました。
2012年「GOLD GLIDER TOUR」ではアコースティック編成で「sailing day」が演奏されています。バンド初となるサブステージの企画がスタッフから提案された際、藤原さんが「アコースティックで”sailing day”をやりたい」と発案しました(直井さんはもっと落ち着いた曲をやると思っていたので驚いたそうです)。
「sailing day」ライブ映像
映像作品「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012」 |
「sailing day」のライブ映像は「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012」に収録されています。前述の貴重なアコースティックバージョンのアレンジです。
またテレビ放送では以下のライブの様子がオンエアされました。
- 2003年8月3日 ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2003
- 2003年8月18日 RISING SUN ROCK FESTIVAL 2003
- 2004年12月11日 TOUR FINAL PEGASUS YOU
以上、BUMP OF CHICKENの「sailing day」の歌詞の意味や制作エピソードについて解説しました。