「夢の飼い主」はBUMP OF CHICKENの『車輪の唄』に収録されているカップリング曲です。“夢”と”彼女”の関係を物語調で綴った歌詞と深みのあるエフェクトサウンドが魅力的な1曲です。ユグドラシルサウンドの完結ともいえるこの楽曲について、歌詞の解釈・解説を中心に紹介します。
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基本情報
夢の飼い主
作詞/作曲 藤原基央
作曲時期:2004年 (ユグドラシル以降)
リリース:2004年12月1日 (9th Maxi Single「車輪の唄」収録)
『ユグドラシル』制作時からあった雛形
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2004年、アルバム『ユグドラシル』を完成させたボーカル・ギターの藤原基央さんはスタッフから新曲を書くように求められます。
藤原 – 夢の飼い主は、なんか、とりあえず急げと言われました。「早く書け、早く書け」って。
2004.12.09 TOKYO-FM 80.0MHz 「discord」
藤原さんが急かされていたのは「車輪の唄」のシングルカットが決定しており、カップリング曲が必要だったと考えるのが自然です。
そこで藤原さんは既に持っていたいくつかのアイデアを形にし「夢の飼い主」を書き上げます。
藤原 – でもAメロとかBメロとかサビっていう流れはすでに出来てました。ユグドラシルの時から出来てました。ユグドラシルの時は1曲っていう形になんなかったっすね。そういえば「夢の飼い主」っていうタイトルもあったな。
2004.12.09 TOKYO-FM 80.0MHz 「discord」
2003〜2004年に行われた『ユグドラシル』制作期間には、その後リリースされる楽曲のアイデアも生まれています。(「ハンマーソングと痛みの塔」「プラネタリウム」「カルマ」)
変わりゆく夢と彼女の関係
夢と夢を抱く人(彼女)の関係性の変化を時間の経過と共に語っています。端的に表現するとすれば「夢を見つける → 夢の本来の姿を見失う → 夢の本来の姿に気づく」という 流れです。
1番は彼女と夢が出会う瞬間、そしてそれを夢だと自覚した場面です。
夢の飼い主 “0:08〜”
生まれた時は覚えてないが呼吸はしていた
理由はないが生みの親はひと目で判った
まだ小さくて白い体すり寄せて見た
彼女もやっとそれに気付いて名前をつけた
引用:「夢の飼い主」 作詞・作曲 藤原基央
時間が経つにつれて彼女は夢を人に見せびらかせたり「夢を持っている自分」に満足してしまい、夢と向き合うことを忘れます。
“2:19″〜
既に名前とは懸け離された姿にされていた
自分の色と動き方を忘れてしまった
彼女もいつかつけた名前を忘れてしまった
引用:「夢の飼い主」 作詞・作曲 藤原基央
曲の終盤で彼女が夢の本来の姿に気付き涙します。
“3:16″〜
自分で着せた服を脱がして涙落とした
あぁ そうだったこんなに白い肌をしていた
(夢の飼い主 / BUMP OF CHICKEN)
引用:「夢の飼い主」 作詞・作曲 藤原基央
<あぁ そうだったこんなに白い肌をしていた>の一節が胸に刺さりますね。純粋に抱いていた夢が、いつの間にか他者との話のネタにしかならなくなったり、夢を持つこと自体を恥ずかしがったり、皆さんも思い当たることが多いのではないでしょうか。
藤原基央のここがすごい
『夢を叶えよう!』とか『諦めなければ夢は叶う!』といった歌うアーティストは沢山います。でも藤原さんは「夢」と「人」の関係を歌っています。加えて物語調に再構成して綴るという視点がすごいなと思います。
藤原基央の夢に対する想い
藤原基央さんにとって、夢とは残酷であり希望でもあり、向き合う覚悟が求められるものだとだとインタビューで語っています。
藤原 – 『これが夢なんだよね』っていうのをよく聞きました、子供の頃から。でも簡単に諦めたりするんだもんな(笑)。笑っちまうよ、ほんとに。そういうもんじゃねえだろと思うんです。
ROCKIN’ ON JAPAN 2004.12
このインタビューでの藤原さんは、キレッキレモードの藤原基央です。他の楽曲のインタビューと違いすごく厳しい表現でシビアに語り、かつ言葉を選んでいるのが印象的です。1公演1公演全身全霊で歌うライブハウスツアーの合間のインタビューのため、藤原さんの根底にある鋭さが出ているのかもしれません。
藤原 -(夢は)もうギラギラしててやばいんです、ほんと。生半可な覚悟で見たら目がつぶれるぐらいの輝きなんです。で、それを見るんです、自分の意志で。
ROCKIN’ ON JAPAN 2004.12
雑誌に加えてラジオインタビューでも同様のことを言っています。
藤原 – 『やっべぇすっげぇ眩しいんだけど、目が潰れんだけど、マジちょっと消えてくんない』って思うくらい眩しいのが夢だと思うし。
2004.12.09 TOKYO-FM 80.0MHz 「discord」
生半可な覚悟では到底見れないものだと語る藤原さん。夢の飼い主以前の楽曲、インディーズ時代の楽曲を作詞する時から同様の哲学を歌ってきました。
グングニル
容易く 自分自身を値踏みしやがって
世界の神ですら君を笑おうとも 俺は決して笑わない
引用:「グングニル」作詞・作曲 MOTOO FUJIWARA
藤原 – 夢を語る奴のことをバカにしたことは一度もないし。そういう奴のために“グングニル”って曲が出てきたりもします。俺は決して笑わないっていう曲です。
ROCKIN’ ON JAPAN 2004.12
続・くだらない唄
この手は 振れない 大事なモノを落としすぎた
この眼は 余りに 夢の見過ぎで悪くなった
引用:「続・くだらない唄」 作詞・作曲 藤原基央
藤原 – そして僕もそういうことをしすぎて目が悪くなりました。夢のみすぎで悪くなりました。そういう歌(続・くだらない唄)も歌ったことがあります。
ROCKIN’ ON JAPAN 2004.12
続・くだらない唄は、藤原さんが20歳のお正月に実家へ帰省した時の体験から描かれています。同級生と会い、そして思い出場所巡りをして生まれてきた複雑な感情から書かれた曲でした。
プラネタリウム・オンリーロンリーグローリーの「光」=「夢」
オンリーロンリーグローリーの出てくる「光」も、プラネタリウム に出てくる「光」も藤原さんの中では両方とも「夢」と同義だと語っています。
藤原 – “プラネタリウム”に出てくる「夢」と「君」。どっちも「光」だと思ってください。で、「夢」は思い描くものですね。「君」は現実だと思ってください。どちらも「光」ですね。「光」であり「星」ですね。「星」は、だから、見えるけど触われないものなんでしょうね。
夢の飼い主以後の楽曲にも、藤原さんの楽曲には「光」「夢」「君」という言葉が沢山出てきます。rayやfireflyなどの「光」にも何か関係あるかも知れません(私は藤原さんの考えと同じく、歌詞の解釈は聞き手に委ねられるべきだと思います)。
歌詞編まとめ
藤原さんが夢を見るという行為をとてもシビアに捉えています。ファンの間では有名な話ですが、藤原さんは高校1年生の秋に学校を中退し上京します。目的意識もなくなんとなく学校に通い続ける事、理由もなく偏差値の高い大学を目指す周囲の雰囲気に意味を見出せなかったからでした。自分の道を選んだ藤原さんにとっては、他人よりも人一倍「夢」や「希望」という概念に対する比重が大きいのかも知れません。
「そういえばインタビューでこんな風に言ってたな」なんて思い出して聴くと、また違った聴き方ができるのではないでしょうか。以上、夢の飼い主の解説・紹介でした。
(次回はレコーディング編に続きます)