「ギルド」はBUMP OF CHICKENの『ユグドラシル』に収録されている楽曲です。
「ギルド」の意味は中世ヨーロッパの同業者組合で、ボーカル・ギターの藤原基央さんは「人間」を「仕事」になぞらえて作曲しました。
藤原さんは「ギルド」でなぜ「人間という仕事」を歌ったのでしょうか。この記事では「ギルド」の歌詞の意味と考察について、メンバー本人のインタビューを紹介します。
BUMP OF CHICKEN「ギルド」基本情報
作詞・作曲 | 藤原基央 |
編曲 | BUMP OF CHICKEN & MOR |
作曲時期 | 2003年11月27日 |
収録作品 | 2004年8月25日 アルバム『ユグドラシル』 |
ライブ演奏回数 | 113回 |
ライブ初演奏 | 2004年9月17日「MY PEGASUS」ZEPP TOKYO公演 |
「ギルド」の意味
guild [gíld]
名詞:(中世ヨーロッパの)同業者組合、商工組合、(近代の)組合、会
「ギルド」とは英語で「同業者組合」を意味します。特に中世ヨーロッパの同業組合として一般的に知られています。藤原さんが好きなゲーム「FINAL FANTASY」シリーズにも用語のひとつとして「ギルド」が登場します。
「ギルド」誕生のきっかけ
embedded from Pinterest
「ギルド」は2003年11月27日にボーカル・ギターの藤原基央さんによって作曲されました。「太陽」のレコーディング制作期間中、ギターの弦を張り替えながら(*注1)最初の歌詞が頭に浮かびます*。
「ギルド」
人間という仕事を クビになってどれくらいだ
引用:「ギルド」/ 藤原基央 (2004年)
藤原さんはそのまま紙とペンで続きを書き、30分で「ギルド」の歌詞を書き上げました。この日のスタジオには音楽雑誌ロッキング・オン社の鹿野淳氏が取材で訪れており、一連の様子を目撃しています。
「ROCKIN’ ON JAPAN」2004年1月号の表紙は同日撮影されたもので、巻末に小さく掲載されれている取材後記にも、生まれたばかりの「ギルド」を披露したエピソードが紹介されています。
この写真が突然出来上がってしまった新曲を4人で合わせた直後のピース・ショットである。(中略)切れてしまった弦を張り替えるついでにタバコを吸ってくると言ってロビーにでた藤原が戻ってきたら、紙切れ一枚をピラピラさせながら「歌詞生まれちまったよ」と照れていたのだ。
引用:ROCKIN’ ON JAPAN 2004年1月号
鹿野氏は説明の中に「ギルド」の歌詞を織り交ぜており、おおよその「ギルド」の歌詞はこの日書かれたものから変わっていないように思われます。
*注1 「ユグドラシル」発売時のインタビューでは「弦を張り替えながら書いた」と鹿野氏は語っているが、2004年1月号では「タバコを吸いにスタジオの外に出て戻ってきた藤原が紙に歌詞を書いてきた」と同氏は語っている。
BUMP OF CHICKEN「ギルド」歌詞の意味
「ギルド」の歌詞の出発点
藤原 – 僕らは今存在している人は、みんな、存在することを選んだ人だと思います。でもなんか、最早ね、あてがわれたのか望んだのか、生きてるのか生かされてるのか、っていう解釈を待たずに呼吸が続いていることがね、少し怖くなったんですよね。そいいうとこからできた曲です。
私たちは自分の意志で生きようとしているのか、それとも日常生活の流れに取り込まれて生かされているのか、考える余地もなく呼吸をしています。思考ではなく、生理的反応で、身体が呼吸を必要としているからです。
ただ単に「呼吸をしている」という事実、ただそれのみ。その事象について恐怖を藤原さんは覚えたといいます。
<それでも呼吸が続くことは 許されるだろうか>の部分で、思考的な解釈よりもプリミティブな部分(本能や運命)に対して藤原さんは問うています。
なぜ人間を「仕事」と書いたのか
藤原 – 「仕事」っていうキーワードは、何か向かいたい部分があって、そのためには、人間でいるという作業を・・・ちょっとデフォルメする必要があったのかもしれないですね。
藤原さんの心理状態・人生観を「別のもの、行為」になぞらえるデフォルメを手法は『ユグドラシル期』の特徴です。「太陽」や「乗車権」も見られます。
「当然」は保証されていない
いきなりですが、質問です。
あなたは、人間ですか?
こんなことを街で聞いたら逆に心配をされてしまうかもしれません。私たちは人間ですし、みんな生きています。当然です。でもこの”当然”が当然でないかもしれないと思い出したら、すごく不安になりますよね。
藤原さんは、当たり前に存在していること、呼吸していること、生きているという<当然>を<当然ではない>のかもしれないと表現します。
『ユグドラシル』発表の5ヶ月前に雑誌企画で書いた手紙に、ギルドの歌詞「人間という仕事」という言葉を使って思いを書いています。
– 3.30 藤原基央の手紙 –
「人間という仕事」に必要なアイテムは何でしょうか。アイテムの前にライセンスが必要だったりして。こんなことを考えながら昨日の昼下がりに川沿いの桜並木を散歩しました。
私たちは人間でいることが当たり前ですよね?でも、もしかすると人間でいるためには<ライセンス>が必要なのかもしれません。そしてその人間であるための<ライセンス>を奪われたら、一体私たちは何なのでしょうか。
現実世界でも、道を踏み外してしまった人、友人の輪から外れた人、家庭が崩れてしまった人、それまで当たり前だったことがそう出なくなることがあると思います。その結果に自分の意思があるにせよないにせよ、それでも呼吸はつづくのです。
藤原 – 自分自身の意思とは関係なく自分自身を続けていかなきゃいけない時もあるんですよね。ということを淡々と歌ってるんでしょうけれども、歌にするということによって少しでも温度が出た気がします。歌うことの意味はひょっとしたらそこにあるのかもしれないです。
BUMP OF CHICKEN「ギルド」制作エピソード
ツルハシで掘る音をイメージしたリズムギター
「ギルド」は”タタッタ タタッタ”というリズムギターが特徴的です。この独特のリズムは炭鉱を「ツルハシで掘りすすめる音」をイメージして弾きました。
「ユグドラシル」で一番話し合った楽曲
直井 – この曲が一番、その瞬間を話し合ったと思う。いっぱいCDを持ち寄って聴いてみたり。(「embrace」のレコーディング後に時間が空いたため練習時間に費やしていたので)引き出しも増えてて、だから”ギルド”の時にはある程度揃ってたんじゃないかな。
ベース・直井由文さんとドラム・升秀夫さんは、そのギターに合わせて「ドドッド ドドッド」というリズムの演奏をしましたが、藤原さんから単純すぎるとNGをもらい、改めてメンバー全員で曲の表現方法について考えることにします。
「人形劇 ギルド」の制作
「ギルド」はDVD映像作品『人形劇ギルド』として2006年にリリースされました。PV・ビデオクリップ集以外では初めての映像作品となりました。「ユグドラシル」リリース時に「ギルド」のPVを制作予定でしたが、アイデア構想が膨らんだ結果、人形劇の物語になりました。
BUMP OF CHICKEN「ギルド」PV
撮影日 | 2006年3月5日 |
PV監督 | 番場秀一 |
ロケ地 | 東京都渋谷区国立代々木第一体育館(全国ツアー「run rabbit run」) |
「ギルド」のPVは番場秀一監督によって「run rabbit run」代々木第一体育館公演のライブ映像と『人形劇 ギルド』の映像をミックスして制作されました。全国ツアー「run rabbit run」では生活困窮者・ホームレス支援の一環として「BIG ISSUE(生活困窮者が販売権を持つ雑誌)」とのコラボを行っており、PVの中にも招待された「BIG ISSUE」販売スタッフの方達が映っています。
「ギルド」ライブ演奏記録
(画像埋込元:Twitter@boc_chama)
「ギルド」演奏回数
演奏回数 | 116回 (発表後270公演のうち) |
演奏頻度 | ★★★★☆ |
初披露 | 2004年9月17日「MY PEGASUS」ZEPP TOKYO |
最終演奏 | 2022年12月13日「BUMP OF CHICKEN Tour 2022 Silver Jubilee」ZEPP TOKYO(HANEDA) |
演奏ツアー | 2004年「MY PEGASUS」 2005年 夏のイベント 2006年「run rabbit run」 2007年 夏のイベント 2008年「ホームシック衛星」 2008年「ホームシップ衛星」 2008年「ROCK IN JAPAN FESTIVSL 2008」 2011-12年「GOOD GLIDER TOUR」 2012年「GOLD GLIDER TOUR」 2013年「WILLPOLIS」 2015年「BUMP OF CHICKEN Special Live」 2018年「COUNTDOWN JAPAN 18/19」 2022年「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 “Silver Jubilee at Makuhari Messe」 2022年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 “Silver Jubilee”」 |
「ギルド」ライブ演奏機材
演奏機材 |
藤原基央 – Sonic Stratocaster (黒/ローズウッド指板) |
増川弘明 – Gibson Les Paul Standard 1958 | |
直井由文 – Sonic Jazz Bass (初号機) または Fender Jazz Bass |
「ギルド」と「車輪の唄」は藤原基央さんが初めてSONIC製ストラトキャスターをライブで使用した楽曲です。2004年全国ツアー「MY PEGASUS」のリハーサルでレスポール・スペシャルを使用していましたが、音のニュアンスを表現できないため当機を導入しました。
ギタリスト・増川弘明さんはメイン機となるレスポール・スタンダードではなく、敢えてサブ機を使用しています。増川さんなりの音作りのこだわりを感じます。
レスポールスペシャルで演奏された「ギルド」
2022年開催のライブハウスツアー「Silver Jubilee 」ではアンコール終了後、藤原さんがクローズのMC中に即興で演奏を始める形で「ギルド」が2度演奏されました(大阪公演、東京公演)。
Gibson Les Paul Special Single Cutaway TV YELLOW
この時は藤原さんのトレードマークであるレスポール・スペシャル(TVイエロー)で「ギルド」が演奏されました。ZEPP TOKYO(HANEDA)公演の様子はLIVE Blu-ray作品にて収録されています。
BUMP OF CHICKEN「ギルド」ライブ映像作品
上記の他に「ギルド」のライブ映像は複数回放映されています。
- 2004年12月11日「PEGASUS YOU」千葉県幕張メッセ (NHK「スーパーライブ」)
- 2005年7月24日「SET STOCK’07」広島県国営備北丘陵公演(SSTV)
- 2005年8月5日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2005」茨城県国営ひたち海浜公園(SSTV)
- 2007年8月18日「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2007」北海道石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ(SSTV)
- 2008年5月17日「ホームシップ衛星」埼玉県さいたまスーパーアリーナ(NHK「スーパーライブ」)
以上、BUMP OF CHICKEN「ギルド」の歌詞の意味と制作エピソードを解説しました。こんなエピソードがあったと思い出してもらえれば、きっと新たな曲の一面が垣間見えるのではないでしょうか。