3rd Album 『jupiter』歌詞・楽曲解説

楽曲解説「Title of mine」 “人を嫌うのは、人がそばにいるから”

3rd Album 『jupiter』

「Title of mine」はBUMP OF CHICKENのアルバム『jupiter』に収録された楽曲です。

 

ボーカル・ギターの藤原基央さんは、「Title of mine」の歌詞の意味の重さに耐えられず、ボーカルブースで倒れ込みながらもレコーディングに臨みました。

 

「Title of mine」に込めた思いとは何か、そのエピソードを解説していきます。



「Title of mine」基本情報

アルバム「jupiter

作詞作曲 藤原基央
作曲時期 2000年秋〜冬
リリース 2000年2月20日「jupiter」Track 03
ライブ初披露 2002年3月23日「POKISTA21」赤坂BLITZ公演
ライブ最新披露 2004年10月4日 「MY PEGASUS」ZEPP SAPPORO公演

「Title of mine」制作エピソード

ギター2本の絡み合いから制作

2000年、「Title of mine」は藤原基央さんによって作曲されました。『jupiter』の中では一番古いアルバム曲で、「ダイヤモンド」の次に生まれたと明かしています。

 

藤原 – (「jupiter」の中で一番最初にレコーディングしたアルバム曲は)「Title of mine」かも知んねえなぁ。「ダイヤモンド」を書いたじゃないですか。その次に書いた曲が「Title of mine」の歌詞がない状態で。その次に「天体観測」の歌詞がないやつ。それはすごい覚えてるんですよ。

引用元:Bay-FM「PONTSUKA!!」2022年2月13日放送

 

 

藤原さん曰く、幾何学的な音色のギター優しい感じのアルペジオ2本のギターの絡みから膨らませていきました。

 

「Title of mine」イントロ部分 (再現)

 

最初の高音のギターが「幾何学的なアルペジオ」で、後から入ってくるギターが「優しい感じのアルペジオ」です。

 

「幾何学的なアルペジオ」は8分音符×13個(変拍子)でループしています。これに通常の4拍子のギターが複雑に絡み合っています。《8分音符×13個》は意図的に作らなければ生まれないリズムパターンで、Title of mine」のオケ作りに藤原さんの実験的なアプローチを窺い知ることができます。

歌詞がないままバンドアレンジを決めていく

「Title of mine」のタイトルも歌詞もないまま、バンド音源の制作を進めていきます。

『THE LIVINGE DEAD』の多くの楽曲や「天体観測」「ロストマン」も歌詞がないままバンド音源の制作を進めていった曲です。

 

箱根の湖のほとりで書いた歌詞

Title of mine 歌詞の意味


箱根・芦ノ湖畔で佇むBUMP OF CHICKENのメンバー。藤原は「Title of mine」のことを思い出したりしていたのだろうか。(画像埋込元:Twitter@boc_chama 201619日投稿)

藤原さんはこの「名前のない曲」を持って箱根にいきます。当時藤原さんは、時折作詞のために箱根に滞在することがありました。「Title of mine」の歌詞は芦ノ湖の畔で書かれます。

 

Title of mine  3:00〜
人に触れていたいと 思う俺は 何だ!?

引用元:Title of mine / 藤原基央 (2002)

「Title of mine」を書き始めた時は “人が嫌いだった” という藤原さん。しかし書き始めたら”人に触れていたい” と自分が思っていることに気づきます。

 

藤原 – 箱根にある湖のほとりで書いたんだけど、書くに連れて、結局は詞の中にあるように人に触れていたいという言葉を書いているオレがいるわけですよ。オレって一体何なんだと思って()

出典:TALKIN’ ROCK #25

 

箱根での作曲当時、藤原基央さんの自宅は小田急線沿いにあり、都内のライブハウスへの移動もまず小田急線に乗って移動していました。アルバム jupiter の頃は作詞作曲をしに箱根に向かうことがあり、「Title of mine」のほかに、増川さんと一緒に「キャッチボール」、箱根で書けず自宅に帰って書いた「天体観測」などの作詞に影響を与えています。

 

人を嫌うのは、人がそばにいるから

 

 

Title of mine  3:00〜
孤独を望んだフリをしていた
手の温もりはちゃんと知っていた

引用元:Title of mine / 藤原基央 (2002)

 

《孤独を望んだフリ》というフレーズに対して藤原さんは自身の心の機微を捉えました。藤原さんは、人が嫌いになったり、ひとりになりたくなる時があったと語っています。しかし人を嫌うということは、自身のすぐ近くに他人の存在があるからだ、と藤原さんは気づきます。

 

人と触れている方が傷つく方が多いのに、それでも人に触れていたいという気持ち それを歌った唄だと藤原さんは解説しています。

 

同時期に書かれた「天体観測」との対比

箱根には「Title of mine」だけでなく「天体観測」の詞も書きに行きました。箱根では書けず、東京に戻った後に「天体観測」を作詞しています。

 

「天体観測」MVスクリーンショット

藤原さんは「jupiter」のインタビューで、「Title of mine」と「天体観測」の2曲はどちらも当時の内的葛藤を歌ったものであると評しており、Title of mine」は主観的に吐露したもの、「天体観測」は客観的に描写したもの述べています。

 

作曲の時期や内容から見て「Title of mine」と「天体観測」は兄弟の関係といえます。

藤原基央を抱きしめたチャマ

藤原さんは「Title of mine」を完成させたものの、BUMP OF CHIKENの楽曲として制作するべきか迷いました。個人的な曲であり、やらない方がバンドのためだと思ったからです。

そんなとき、Title of mine」の歌を聴いたベーシストの直井由文(チャマ)さんは藤原さんを抱きしめます。

 

藤原 – チャマは聴いた時、俺を抱きしめてくれたけどね。

直井 – うん。だって、ひとりになりたいと思うときは、誰にでもあると思うもん。

出典:TALKIN’ ROCK #25

 

藤原さんはBUMP OF CHICKENのメンバーが「Title of mine」という個人的な曲を受け入れてくれたことが嬉しく、制作することを決心します。

 

BUMP OF CHICKENは4人で支え合っているバンドだと象徴するエピソードです。

 

ボーカルブースで倒れた藤原基央

「Title of mine」の歌入れをする際、藤原さんは狭いレコーディングブースの中で倒れてしまいます。

 

足も震え出して、立つことさえままならなかった藤原さん。CDに収録されている「Title of mine」のボーカル・テイクは極限の精神状態の藤原さんから絞り出た声でした。

 

演奏の特徴

アルペジオ2本で進むBUMP OF CHICKEN最初の楽曲

Title of mine」は2本のアルペジオが絡み合うBUMP OF CHICKENとして初めての曲です。それまでアルペジオで演奏していた「リトルブレイバー」「ランプ」「ラフメイカー」はギター1本での演奏でした。

 

冒頭で紹介した「優しい感じ」のギターは8小節《8分音符 × 64個》のリズムですので、通常4拍子系の楽曲では4の倍数で収まるようになっています。一方で「幾何学的な」ギターは《8分音符 × 13個》で1セットです。このため2本のギターは綺麗に収まることなく、常に違う響きが曲中で鳴っています。

 

通常、ギタリストであれば無意識に弾いても4拍子、3拍子になるため、8分音符 × 13個というのは意識的にハズさなければ生まれないリズムです。「Title of mine」には、藤原さんの音楽的・リズム的な探究心を窺い知ることができます。

ベースで多様なコードを表現

「Title of mine」はギターの規則的な分散和音を終始鳴らしつつ、直井さんがベースで違う音階を弾くことで展開を作っています。

 

「Title of mine」コード進行(一部省略)

Aメロ Csus4 |CCadd9 | C
Bメロ F  |ConEDm7 | ConE
|FonA |ConG | GonC

半音下げチューニング 太字が直井が弾いている音階

 

同じギターをルート(基幹音)を変えて表現するのはBUMP OF CHICKENの楽曲でたくさん使われている手法です。音に安定感を与えながら、楽曲の変化・展開を印象付けています。コードにこだわりを持つ藤原さんの高い音楽性が伺えます。

 

 



「Title of mine」ライブ演奏記録

BUMP OF CHICKEN Title of mine ライブ

Title of mine」が演奏された2002810日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002」出演時の様子。(画像埋込元:https://ro69-bucket.s3.amazonaws.com

演奏回数 27回
演奏頻度 ★★☆☆☆
初披露 2002年3月23日「POKISTA 21」at 赤坂BLITZ
最終演奏 2004年10月4日「MY PEGASUS」at ZEPP SAPPORO 
演奏ツアー・ライブ 2002年 全国ツアー「POKISTA 21」※全公演演奏
2002年「B.O.C. presents BAUXiTE page 1」at ZEPP SENDAI
2002年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002」国営ひたち海浜公園
2002年 全国ツアー「LOVE & PORKIN
2003年 全国ツアー「NINJA PORKIN
2004年「ヒゲ・ポーキン」渋谷TOWER RECORD Stage B1
2004年「BUMP DAY 佐倉FREE LIVE」佐倉市民体育館
2004年 全国ツアー「MY PEGASUS

Title of mine」は20022004年の3年間のみ披露され、20年近くライブで演奏されていません。「POKISTA 21」「LOVE & PORKIN」「NINJA PORKIN」の3本のツアーで演奏されています。

ライブ演奏機材

2002年8月「ROCK IN JAPAN FESTIVL 2002」

藤原基央 Gibson Les Paul Special “1960 Historic Collection” TV YELLOW 
増川弘明 Gibson Les Paul Standard (Tea Burst)
直井由文  Fender Jazz Bass (黒/1965年製)

 

2004年5月 佐倉市民体育館「BUMP DAY FREE LIVE」

藤原基央 Gibson Les Paul Special “1960 Historic Collection” TV YELLOW 
増川弘明 Gibson Les Paul Standard “1959 Historic Collection”(2003年製・Sunburst / トラ目)
直井由文  Sonic Jazz Bass (通称 “初号機”)

 

増川弘明さん、直井由文さんの使用機材が変化しています。

謎の札幌公演での披露

「Title of mine」が最後に演奏されたのは、2004年10月4日 全国ツアー「MY PEGASUS」ZEPP札幌公演です。同ツアーは40公演を超えるにも関わらず、「Title of mine」はこの1回のみの演奏であり、メンバーの間で何かしらのきっかけや意図があったのかもしれません。

演奏を止めたエピソード

2003年5月20日、全国ツアー「NINJA PORKING」神戸チキンジョージ公演でTitle of mine」の演奏を中断しました。静かなイントロ演奏中に歓声が勢いづき聞こえなくなったからです。

 

藤原さんは《嬉しいんだけど、アルペジオに命懸けてっからさ!》とフォローしています。ひとつひとつの演奏に気持ちをこめているBUMP OF CHICKENらしいエピソードです。

藤原基央がライブでギターソロを弾く曲

2004年までのステージでは、ボーカルの藤原さんが「Title of mine」のギターソロを弾いています。

 

「Title of mine」ライブ映像

  • 2002年8月10日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002」茨城県国営ひたち海浜公園(SPACE SHOWER  TV)
  • 2004年5月6日「BUMP OF CHICKEN FREE LIVE」千葉県佐倉市民体育館(SPACE SHOWER TV)

 

「Title of mine」は過去に2度ライブ映像が放送されています。ライブでのギターソロは藤原基央さんが演奏しますが、アドリブ感満載の迫力あるギターソロになっています。

 

以上、BUMP OF CHICKENの「Title of mine」の歌詞の意味と制作エピソードについて解説しました。この記事を読んで新しい聴き方を見つけていただければ幸いです。ありがとうございました。