「なないろ」はBUMP OF CHICKENが2021年にリリースした楽曲です。
「なないろ」はNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」主題歌として、ボーカル・ギター藤原基央さんによって書き下ろされました。
藤原さんが「なないろ」の歌詞に込めた想いとは何か、どのように「なないろ」が制作されたのか、この記事では歌詞の意味や制作エピソードを解説します。
「なないろ」基本情報
- シングル「なないろ」
- アルバム「Iris」
作詞・作曲 | 藤原基央 |
作曲時期 | 2020年7月〜秋 |
録音時期 | 2021年2月 |
リリース |
2021年5月18日 配信シングル「なないろ」 |
2021年12月22日 シングル「なないろ」 |
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2024年9月4日 アルバム「Iris」 | |
ライブ初披露 | 2022年7月2日「BUMP OF CHICKEN Silver Jubilee at Makuhari Messe」 |
「なないろ」作曲エピソード
2020年、新型コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言が発布されるなかで、藤原さんは心の中に渦巻く気持ちを「Flare」という歌詞で認(したた)めていました。
NHKからBUMP OF CHICKENへの信頼
2020年7月、「Flare」の2番まで作詞をした頃にNHKから打ち合わせの依頼が来ます。それが翌年の連続テレビ小説「おかえりモネ」主題歌のオファーでした。

2021年「おかえりモネ」(画像引用元:NHK)
番組名 | 連続テレビ小説「おかえりモネ」 |
制作 | NHK(日本放送協会) |
放送期間 | 2021年5月17日〜10月29日 |
主題歌 | BUMP OF CHICKEN「なないろ」 |
出演 | 清原果耶、鈴木京香、坂口健太郎、永瀬廉 他 |
この時の打ち合わせで、NHK側からテンポや曲調について一切リクエストがなく、BUMP OF CHICKENの音楽への信頼と熱意を藤原さんは感じます。
藤原さんは残りのBUMP OF CHICKENのメンバーに想いを伝え、主題歌のオファーを承諾しました。
わずかな情報をもとに「なないろ」を作曲
藤原さんは作曲にあたり、3話分の脚本と以下の基本的な設定を教えてもらいます。
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- 女の子が気象予報士を目指す設定
- 舞台は宮城県・気仙沼市
- 震災を経験する
藤原さんが主題歌を書き下ろすときは、決して主人公やドラマの登場人物になりきって書くことはありません。タイアップ作品とBUMP OF CHICKENの共通するテーマに焦点を絞って作曲をするため、タイアップ先の情報量が多い少ないに影響を受けることはないといいます。(例外は「友達の唄」)
こうして2021年夏から秋にかけて作曲し、藤原さんは「なないろ」を書き下ろします。最初に藤原さんはアコースティック・ギター1本のデモテープを録りました。
「なないろ」歌詞の意味

「Flare」2022年2月11日配信
「なないろ」は前作「Flare」と同時期に作詞されたため、同じことを別のテンションで歌っていると藤原さんはインタビューで語っています。
藤原 – “Flare”と”なないろ”は同じ時期にすげえ真剣に考えていたことが、別々のテンション感で出てるなっていうのは自分でも思う。(中略)違う角度、違うテンション感で歌ってるんですけど、歌ってることはほぼ同じで。
引用元:「MUSICA」2021年7月号
時系列でみると「Flare」2番終わりまで書き、「なないろ」を1曲全部書き上げた後、「Flare」を最後まで完成させる順番で2曲が書かれているため、歌詞の主題に似通った部分が出ています。
藤原さんは、特に2曲の以下の部分について同じことを歌っていると解説しています。
「なないろ」0:40〜
昨夜の雨の事なんか 覚えていないような お日様を
昨夜出来た水たまりが キラキラキラキラ 息をしてる引用元:「なないろ」(2021年)/ 藤原基央
「Flare」1:52〜
昨夜全然 眠れないまま耐えたこと
かけらも覚えていないような顔で歩く引用元:「Flare」(2021年)/ 藤原基央
どちらも”昨夜”(直近で起きたこと)を翌日に持ち越さないようにしている描写がされています。
悲しいことを考える時に書いた2番の歌詞
「なないろ」を書いている時、藤原さんは〈悲しかった〉と吐露しています。
・・・・この歌詞を書いてる時さ、すげえ悲しかったんだよ。特に2番のAメロを書いている時はすごいしんどくてさ。
引用元:「MUSICA」2021年7月号
藤原さんがインタビューで負の感情を話すことは珍しいです。「HAPPY」のときに”とても悲しい出来事があった”、「モーターサイクル」のときに”イヤなことがあった”と話したことを思い出します。
「なないろ」作詞中は何回もため息をつきながら書いたといいますが、藤原さんは何に対して”悲しかった”のかは言及していません。
同年9月、ベーシスト・直井由文さんが不倫報道で活動休止するというバンド史上に残る事件が起きますが、ただちに「なないろ」に結びつけることは邪推かもしれません。
重たいところを書いた歌詞
「なないろ」は天候・気象というモチーフを扱っています。藤原さんは「お日様」「晴れの日」というモチーフはネガティブなイメージも共存しているといいます。
藤原 – 青空に対して希望を抱く人もいるし、「晴れて良かった」みたいな。逆に「晴れないで欲しかった」っていう日もあるじゃないですか。自分も経験があって、抜けるような青空で逃げ場がない気持ちになったり「うわ、家から出たくない」って思うこともあって。そういうところで思うところをちょっとずつ歌詞にしたって感じですね。でもやっぱ、そういうことを書いてると、重いところを書いてるなって感じはしますね。
出典:Spotify Liner Voice+「Iris」
「青空」というモチーフに対して必ずしも正の感情だけはない、負の感情もあるという着眼点が詩人・藤原基央としての素晴らしさを感じさせます(類似の例としてBUMP OF CHICKENの「太陽」という曲は非常に暗い曲調です)。
〈重いところを書いた〉というのは、前述の”悲しい気分だった”状況が反映されていると考えられます。藤原さんは「Flare」では重い部分を、「なないろ」では軽い部分を表現したと明かしています。
藤原基央の思う”天候”のモチーフ
藤原さんはこれまでも天候や気象をモチーフに使うことがありました。
藤原 – 自分が今までも題材として取り上げることが多くて。自分の状態と全く関係なく、晴れたり、曇ったり、雨降ってきたりするじゃないですか。
出典:Spotify Liner Voice+「Iris」
上記でいう〈天候は自分の状態と全く関係ない起こりうる〉という解釈は「天体観測」の歌詞でも歌っています。
予報外れの雨に打たれて 泣き出しそうな
君の震える手を 握れなかったあの日を引用元:「天体観測」(2001年)/ 藤原基央
以前インタビューで「天体観測」の歌詞のポイントについて「予報外れの雨」と言及していました。自分ではコントロールできないものの喩えとして「雨」があるといいます。
コロナ禍での不安やBUMP OF CHICKENの状況(メンバーの活動休止)など、「なないろ」「Flare」を作詞している時にはアンコントローラブルものが藤原さんを取り囲んでいました。
「Iris」まで続く”虹”というモチーフ
BUMP OF CHICKENの楽曲やアルバム名に「虹」がモチーフとして登場します。
曲名 | リリース年 | |
「ハルジオン」 | 2002年 | 歌詞に登場 |
「arrows」 | 2007年 | 歌詞のモチーフ |
「虹を待つ人」 | 2013年 | タイトルと歌詞に登場 |
「月虹」 | 2019年 | 月の輪が作り出す虹を「月虹」と呼ぶ |
「なないろ」 | 2021年 | タイトルのモチーフ |
「Voyager, flyby」 | 2024年 | 歌詞に登場 |
「青の朔日」 | 2024年 | 歌詞に登場 |
「Iris」 | 2024年 | 虹彩や虹の女神を意味する |
藤原さんにとって「虹」は作詞における重要な心象風景だといいます。詞を書く上で起点となるのは、これまで育ってきた原風景や出会ったモノ、コトだといい「朝焼け」「月」「夕方5時のサイレン」などと並んで「虹」もそのうちのひとつと位置付けています。
虹は決して雨が降らないとできません。「雨」をコントロールできない悲しみや苦しみと置くならば、「雨」が止んだ後にかかる照らし出される「虹」に藤原さんは意味を見出しているのではないでしょうか。
「なないろ」制作エピソード

2021年2月レコーディングセッション(引用元:X@boc_official_)
2021年2月、BUMP OF CHICKENのメンバーは「なないろ」のレコーディングを行います。当時ベーシスト・直井由文さんが活動休止中であったため、藤原さん、ギター・増川弘明さん、ドラム・升秀夫さん3人で「なないろ」を制作します。
X(旧Twitter)のBUMP OF CHICKEN公式アカウントは2020年12月、2021年1月、2月の3回のレコーディングセッションの様子を投稿しています。リリース日や後日NHK放送された「Flare」制作映像から推測すると、「Flare」を2020年12月、「なないろ」を2021年2月にレコーディングしたことがわかります。
重い歌詞と対照的な明るい曲調
藤原さん自身「なないろ」は重さのある歌詞と表現する一方で、明るい曲調となっています。
藤原 – (重い歌詞に対して)でも曲調はどこまでも明るいんで。この曲調にして、この歌詞っていう大事なバランス感だったと思います。
出典:Spotify Liner Voice+「Iris」
藤原さんは負の感情の歌詞に対して正の感情の曲調を組み合わせるバランスを無意識に持っていると語っています。先の例で挙げた「HAPPY」もとても明るいロックな曲調です。
イントロは”虹がスーッとかかる”イメージ
イントロで弾かれているエレキギターのフレーズは虹が架かる様子をイメージしたと言います。
藤原 – ドラマが始まる時のイントロでも使われているあのフレーズは、虹がこちら側か向こう側へとスーッと架かっていくイメージなんですよね
引用元:「MUSICA」2021年7月号
このフレーズは12弦ギター・Rickenbacker 360を使用して演奏しています。

Rickenbacker 360/12strings
ライブではギター・増川さんがこのフレーズを弾いており、増川さん自身はAmazon Music Unlimitedの全曲解説インタビューで「このフレーズをすごく気に入っている」と話しています。
最初からホーンのイメージを持っていた間奏
藤原さんは「なないろ」弾き語りデモテープを制作する段階で、間奏でホーンやストリングスの管弦楽器が入ることをイメージしていたとNHKラジオ番組NHKラジオ第2「らじるラボ」にて発言しています。
間奏のストリングス(弦楽器)は「花の名」「魔法の料理〜君から君へ〜」「pinkie」などでも依頼をしている弦一徹氏に依頼しました。同氏へブラス(管楽器)も入れたいと伝えたところ、〈フルートも入れてはどうか?〉と提案があり、フルートを入れることにします。
ベースを弾く藤原基央

ベースを弾く藤原基央(引用元:X@boc_official_)
活動休止期間中のベーシスト・直井由文さんに代わり、「なないろ」「Flare」の配信シングル2曲は藤原さんがベースを弾いており、Xでも藤原さんがベースを弾く姿が投稿されています。
藤原 – だから”Flare”と”なないろ”に関しては、俺がベースを弾いてます。それはそうするしかなかったんです。
引用元:「MUSICA」2021年7月号
このベース機材は直井さんが保有する機材一覧にはないため、藤原さん所有のベースか、もしくはヴィンテージ機材を貸出する会社などから入手したと考えられます。インタビューでは藤原さんはバンド内にベーシストがいるのにベースを所有することに抵抗感があったと告白しています。
NHK放送時と配信リリースでは藤原さんがベースを弾いていますが、2021年12月にフィジカルリリースとしてCD収録された際は直井さんが弾き直しています。
「なないろ」MV
「なないろ」のミュージックビデオは2種類存在します。「おかえりモネ」放送開始に伴って公開されたVFX主体で制作されたMVと、紅白歌合戦の出演前に公開されたBUMP OF CHICKENのメンバーによる演奏MVです。
「なないろ」MV 公開日:2021年5月 制作:株式会社KASSEN |
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「なないろ」 Performance MV 公開日:2021年12月 撮影日:2021年冬 監督:島田大介 ロケ地:静岡県富士宮市朝霧自然公園 |
BUMP OF CHICKENのメンバーによる「なないろ」Performance MVはのロケ地(撮影場所)は静岡県富士宮市にある朝霧自然公園で撮影されました。
「なないろ」ライブ演奏記録
演奏回数 | 54回 |
初披露 | 「Silver Jubilee at Makuhari Messe」幕張メッセ |
演奏ツアー | 2022年「Silver Jubilee at Makuhari Messe」 2022年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee」 2023年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」 2024年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvouz」 |
TV演奏 | 2021年12月31日 NHK「第71回 紅白歌合戦」 2024年9月2日 TBS「CDTV!ライブ!」 |
「なないろ」はBUMP OF CHICKENのライブで54回演奏されています。
コンセプト・ツアーである「ホームシック衛星2024」を除き、2021年のリリース以降すべてのツアーで演奏されており、NHKの朝ドラ主題歌として広く認知度が高いことなどが理由として考えられます。
2度目に紅白歌合戦に出場
2021年12月31日、NHK「第71回 紅白歌合戦」に2度目の出場をしました。ドラマの舞台となった宮城県・気仙沼市の田中浜で撮影した「なないろ」を披露しています。
コロナ禍の中でリスナーと交流した藤原さんは、泣きそうになるくらい嬉しかったと振り返っています。
「なないろ」ライブ演奏機材
藤原基央 | Martin 00-15M | ![]() |
増川弘明 | Gibson Les Paul Standard 1956 | No Image |
直井由文 | Sonic Jazz Bass “初号機” |
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「なないろ」は2022〜2024年にかけて同一機材で演奏されています。藤原さんはツアーステッカーをボディに貼ったMartin 00-15M、増川さんは映像中の確定的な判断は難しいですが、ボディの木目からLes Paul Standard 1956(過去にもカポ用機材として使用)と思われます。
直井さんは現在のメイン機であるFender製オーダーメイドベースではなく、旧メイン機であるSonic Jazz Bass “初号機”を使用しています。
「なないろ」ライブ映像作品
映像作品「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe」 |
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映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee at Zepp Haneda(TOKYO)」 | ![]() ![]() |
映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there at SAITAMA SUPER ARENA」 | ![]() ![]() |
以上、BUMP OF CHICKENの「なないろ」の歌詞の意味と制作エピソードについて解説しました。