作詞作曲:藤原基央
作曲時期:2003年
レコーディング時期:2003年秋
embraceは4枚目のアルバム「ユグドラシル」に収録されている楽曲です。ミドルテンポの優しい曲調と、ボーカルの藤原さんが歌う〈腕の中へおいで〉という包容的なサビは聴く人に安心感を与えてくれます。
その一方でこの曲がレコーディングされた時期は藤原さんとバンドメンバーは疎遠だったと言います。一体何があったのでしょうか。この優しい曲に隠された、バンド内の葛藤と成長を紹介します。
Contents
ユグドラシル制作のはじまり
2003年前半の主な活動
2~3月 | 「ロストマン/sailing day」プロモーション活動 | embraceを書く? |
Space Shower TV主催 MVA受賞 武道館ライブ | ||
5~6月 | ツアーNINJA PORKING開催 | |
8月 | 夏フェスで未発表曲 “embrace”初披露 |
2003年の前半はユグドラシル制作は本格的にはスタートしておらず、主にプロモーション活動とツアーを行なっていました。そのような日々の中で、藤原さんは「同じドアをくぐれたら」と「embrace」の2曲を書きます。
藤原さんはembraceを自宅で大きな声で歌いながら作曲しました。大きな声で歌いながら作った曲は、ダイヤモンドやハンマーソングと痛みの塔などがあります。
仲が良いというイメージしかないBUMP OF CHICKENですが、ツアーを終えて作曲活動をしている頃は、藤原さんとバンドの間に距離があったそうです。
藤原 うーんと…バンドとはちょっと疎遠でしたね。そんな記憶はありますね。ま、他のメンバーがずっとスタジオに入ってて、俺は曲を作ってたっていうのもあるんですけどね (JAPAN-vol.)
2003〜2004年にかけて、メンバーの間では色々なことが起きていており、藤原さんは「個人レベルで色々良くない事があった時期」と形容しています。
増川の脱退問題
ネット上で噂になっている”増川脱退“の話はあながち嘘ではないと思います。私見ですが、それについてはfire signの記事で書きましたので、気になる方は読んでみてください。
メンバーが増川さんの学業について議論したのか、あえて議論しなかったのかは不明ですが、“バンドは前に進み続ける”ということは決まっていたようです。
他にも増川さんのけっこn…ケフンケフン、プライベートな出来事も同時期にあったようで、「増川さんがバンドとどう向き合うのか」という問題があったことは十分考えられます。
あくまで私の個人的推測だと思ってくださいね。
「温もり以外は信用してない」
Photo by Bev Goodwin
藤原さんはembraceの歌詞ついて次のように語っています。
藤原 ”ほんとに温もり以外は信用してないところがあります、僕は。それ以外のものは、何か落とし前をつけないと信用出来ない部分がありますね、やっぱり。だから電車に乗るっていう作業。俺がここにいていい理由。それは俺がちゃんとお金を払って切符を買ったから、っていうことで信用出来ます。温もり以外のものは、そうやって信用するしかないです”
自分がここにいていい理由なんて考えたことあるでしょうか。場違いな雰囲気の場所に入ってしまった時の後ろめたさのような経験はありますが、普段何気なく生活している時に、自分がそこにいることは当然の権利として気にも留めないことが多いと思います。
しかし藤原さんは日常の中で疑ったことのない関係性を問いつめ、対価・代償として何かを支払わなければ、自分がそこにいていい理由にならないとしています。
この年の暮れに出来上がるギルドの作詞をする時に「人間という仕事をするためには、何かライセンス(資格)が必要なのかな」ということを考えた藤原さん。「当たり前」や「当然」ということを疑うコンセプトが似ていますね。
藤原さんは高校中退後、「学校に行かないなら働いて家賃を納めなさい」と母親に5万円の家賃を求められ、その関係性が嫌で上京することになった過去があります。上京後も知人の家を転々とし、ギリギリ牛丼一杯食べれるかどうかの所持金で真冬の公園で一晩をしのいだこともありました。
このような若い時の経験が、藤原さんにとって「理由」や「落とし前」という発想を強くしたのでしょうね。
Kとの関連性
Photo by SandyManase
ファンの間ではembraceがKとリンクしているという噂があります。ただし、藤原さん本人がそれについて言及したことは一切ありません。
黒猫と絵描きさんの成り行きを物語調に客観的に書いた曲が「K」、ボロボロになって街を彷徨っていた黒猫を見つけた時の絵描きさんの主観で書いた曲が「embrace」と言われています。
確かに<隠れてないで出てこいよ>や<腕の中へおいで>は猫を見つけた時の描写と考えられますね。腕の中へ入るくらいのサイズなので、あり得ると思います。
そして何より<君は僕に見つかった 首輪のない姿で>は猫を想像させます。Kに登場する猫とは断言できませんが、あながち的外れではないですし、そのような解釈があったほうが藤原さんのリンクし合う世界観が見れて面白いともいます。
ちなみに夏フェスで披露された後、とある音楽雑誌が「仔犬との温もりを書いた曲」と確定的なように記載したことで訂正記事と謝罪文を公式ホームページで発表したことがありました。そのため、少なくとも仔犬ではないですね。
私はあくまで解釈は人それぞれだと思っているので、こんな説もあるよ、というふうに流して読んでください(笑)
歌詞変え
embraceは2003年8月の夏フェスで未発表曲として演奏されています。その時の歌詞はアルバム収録されるものと2番Bメロが変わっていました。
ユグドラシル収録版(2004年)
呼吸の音がする 柔らかい匂いもする
全てこの手のひらに 集めて閉じ込めるよ
初披露版(2003年)
呼吸の音がする 柔らかい匂いもする
願わくば手のひらにも ひとつ情報が欲しい
2004年12月12日PEGASUS YOU 幕張メッセ最終日でも初披露時の歌詞変えが行われています。
2004年12月12日 PEGASUS YOU 幕張メッセ (2004年)
呼吸の音がした 柔らかい匂いもした
願わくば手のひらにも ひとつ情報が欲しい
その後、2005〜2012年にかけて暫くはアルバム収録版の歌詞で歌われていましたが、2015年のSpecial Liveでは久しぶりに初披露時の歌詞が歌われました。
レコーディング
感覚ではなくて、初めて譜面で理解しようとした
ベースの直井さんはスノースマイルまでは感覚でベースを入れていました。特徴的な動き回るベースラインは藤原さんのボーカルのメロディラインと音がぶつかることもありました。
しかしembraceからは、“曲の求める形”を優先して”目立ち”をぐっと押さえて曲の重心をしっかり支えるベースプレイをするようになります。
直井 ” やたら話をしたのを覚えてる。もっと後ろで重たく鳴らしたいとか。感覚ではなくて、それをちゃんと音符で。クリックをひたすら流しながら、それに1回ピタッとはめるっていう。藤原が来るとすごいびっくりするんだ「なんでこいつら、こんなにつまんなそうにやってんだ?何で養成ギブスを付けながら固く音楽を鳴らしてんだ?」って。でもたぶん俺ら(直井と升)に必要だったんだと思います。より音楽を深く理解した曲第一弾。ほんと、ベースの「ベ」の字をようやく理解したんだろうなっていう1曲目ですね”
レコーディング不参加の増川
増川さんはembraceと同じドアをくぐれたらの2曲のレコーディングには参加ませんでした。単純に技術力不足と当時抱えていたバンド内の問題によるものだと思われます。
jupiter〜ユグドラシル過度期のサウンド
アルバムの中でも古い曲だからか、アレンジや音作りは全編通してシンプルであり「jupter」寄りのサウンドの印象を受けます。藤原さん自身、アルバム発売後のインタビューで録り直したらもっとよくなる旨を述べています。
6/8拍子の曲は発表音源では初めての曲です(『バイバイサンキュー』は3/4拍子)。ベースの直井さんにとってはクリック(リズムキープ用の電子音)をならして練習した最初の曲となりました。また、メジャーデビュー後に初めてレギュラーチューニングでレコーディングされた曲でもあります。
バンプにとって色々な”初めて”が含まれている曲なんですね。
ライブ演奏記録
夏フェスで新曲として演奏された
2003年の夏フェスで初披露されてからはコンスタントに演奏され続けています。2005年の愛知万博ライブ、2012年のGOLD GLIDER TOURではアコースティック版で披露されました。
以上、簡単ですがembraceについて紹介しました。またライブでこの歌を演奏してほしいですね。
Eye-catch Photo by SandyManase