「カルマ」はBUMP OF CHICKENが2005年に発表した楽曲です。「天体観測」に次ぐシングル売上枚数を記録し、バンドを代表する1曲となっています。
「カルマ」の意味は”自分のなしたことことが自分に返ってくる”という因果を表す仏教用語(『業』)です。藤原基央さんはなぜこの言葉をタイトルにつけたのでしょうか。この記事では歌詞の意味や楽曲の制作エピソードを紹介します。
「カルマ」基本情報
作詞・作曲 | 藤原基央 |
編曲 | BUMP OF CHICKEN & MOR |
作曲時期 | 2005年(原型は2004年) |
収録作品 | 2005年11月23日「supernova/カルマ」 |
2005年12月14日「カルマ/supernova」 | |
2006年03月22日「SONG FOR TALES OF THE ABYSS」 | |
2007年12月19日「orbital oeriod」 | |
2013年07月03日「BUMP OF CHICKEN II <2005-2010>」 | |
ライブ演奏回数 | 124回 |
ライブ初演奏 | 2006年1月13日「run rabbit run」ZEPP SAPPO公演 |
「カルマ」の意味は仏教用語の「業」
カルマ
カルマは「過去(世)での行為は、良い行為にせよ、悪い行為にせよ、いずれ必ず自分に返ってくる。」という因果応報の法則のことであり、インド占星術の土台であるヴェーダ哲学の根底に流れる思想である。
引用元:コトバンク 「カルマ」
カルマ(梵: कर्मन् karman)の意味は仏教用語で因果応報を示す言葉で、森羅万象全ての因果は繋がっているという思想を表しています。
しかし藤原さんは仏教的な意味を伝えようとする意図はありませんでした。
藤原基央が書きたかった「カルマ」
宗教的な意味では使っていない
藤原さんは「宗教的な意味で使ったわけではない」といいます。歌詞の主題や意義を伝える上で当てはまる言葉が「カルマ」だったのかも知れません。
藤原 – 業って宗教用語ですよね。だけどそういう宗教的な意味合いで使ったわけではなくて、考え方によっては歌わなくてもよかったことかもしれないですけど、これについては結構昔から何度も考えてたんですね。だからこういう抽象的なものになった気がします。
出典:「B-PASS」2006年1月号
藤原さんは以前から「カルマ」というテーマを扱おうとしてきましたが、難解なテーマをあえて易しくわかりやすい歌詞にはしたくないという理由から敬遠していました。
「カルマ」のように “いつか曲にしたい” と思うフレーズ・言葉を曲名に付けることがあります。「メーデー」「R.I.P.」のタイトルは藤原さんが小さい頃に覚えた印象的な言葉に由来しています。
関連記事:「メーデー」救難信号を挟んだ両者の物語
さっくり書き上げた歌詞
元のアイデアとして存在していたのはサビの歌詞です。
カルマ 1:38〜
必ず僕らは出会うだろう 同じ鼓動の音を目印にして
引用元:カルマ / 作詞作曲 藤原基央 (2005年)
サビの歌詞を軸にAメロやBメロといった部分を作詞しました。作業中は「ガーーーっと鳴らしてドーーーーっと書いた」といい、藤原さんの楽曲の中では比較的短い期間で書き上がります。
「カルマ」という言葉を肯定的に響かせる
藤原 – 「カルマ」って言葉を肯定的に響かせることが詩人としての僕の仕事なんじゃないかなって思います。…………そういうことは今までにもあった気がする。僕は「Everlasting lie」っていう歌で“嘘”というのを“約束”に近いものにしたし、“嘘”を“生きる力”にすることができたし。
引用:Excite「カルマ」INTERVIEW BUMP OF CHICKEN
「因果応報」という言葉を聞くとおどろおどろしいイメージを沸かせます。藤原さんは「言葉のネガティブなイメージは人間がつけたもの」として、自分なりの解釈で「カルマ」を伝えることを意識しました。
藤原 – この曲の場合には、「カルマ」っていうタイトルが、その物差しになっていると思うんです。<必ず僕らは出会うだろう>っていうフレーズに「カルマ」っていう言葉を当ててみて欲しいし、<鏡なんだ 僕ら互いに>っていうフレーズに「カルマ」っていう物差しを当てて計ってみて欲しい。
引用:Excite「カルマ」INTERVIEW BUMP OF CHICKEN
「同じ悲鳴の旗」の解釈
カルマ 1:40〜
初めて僕らは出会うだろう 同じ悲鳴の旗を目印にして
引用元:カルマ / 作詞作曲 藤原基央 (2005年)
「同じ悲鳴の旗」の解釈について藤原さん本人が説明をしています。
藤原 – 傷つけた自分と傷つけられた自分。どっちかわかんないけど、必ずそこにはパートナーが存在していて。例えば自分が傷つけた側で、向こうが傷つけられた側だとしたら、当然向こうは悲鳴をあげているだろうけど、それに気づいた時に自分も悲鳴をあげているんですよね。 (中略) 「同じ悲鳴の旗」っていうのはそういうことなんですよね。
出典:「B-PASS」2006年1月号
「傷ついた」「傷つけた」 や「喧嘩した」という行為は必ず対になるパートナーが存在しており、二人で一緒になって作り上げたものだと述べています。
傷つけた相手は「他者」にもなりますし「自分自身」かも知れません。藤原さんが好むモチーフ「鏡」とはこのような状態を指していると思われます。
同様の事を「firefly」のカップリング曲「ほんとのほんと」(2012年) でも歌っています。
ほんとのほんと 0:29〜
誰かが誰か傷つけて だからどちらも傷付いて
お揃いの気持ちで離れながら お揃いの気持ちで側にいた
引用元:ほんとのほんと / 作詞作曲 藤原基央 (2012年)
藤原さんの「同じ悲鳴」の説明と全く同じです。
「昔からずっと同じことしか書いていない」という藤原さん。同じことを書いています。「同じ悲鳴」という言葉は7年後に「ほんとのほんと」の歌詞で別の言い方で表現されています。
なぜこのようなことが起こるのか?それは藤原さんの作詞法に秘密があります。いつになるかわからないですが、いつか書きたいと思います。
藤原「個人レベルで決着つけなくちゃいけないものって誰にでもあるから」
一つの出来事に関して「同じ旗を掲げている」ことに気づいた時、謝る、喧嘩する、もう一回友達になる、どの方法にしろ相手と決着をつけるべきだと藤原さんは語っています。
この「決着をつける」という概念は、小さなフリーペーパーのインタビューでも強調して語られています。
藤原 – これは「カルマ」で言ってることですが、個人レベルで決着つけなくちゃいけないものって誰にでもあるから。そこを都合よく見て見ぬフリをせず、どれだけ向け会えるかってことだと思う。
引用元:80 -HACHIJU- DECEMBER 2005
自分ひとりの内的葛藤、あるいは他者を巻き込んだ社会生活の中で、ひとつずつ向き合ってケリをつけていくことの重要性を問うています。
「カルマ」はテンポがゆっくりのバラードだった
「カルマ」のサビのメロディのアイデアは『ユグドラシル』(2004年) 制作時からあり、その時はもっと遅いテンポでした。ベストアルバム発売時のインタビューで作曲エピソードを語っています。
藤原 – カルマはマイナー調の速い曲なんですけど、最初はこのサビメロがもっとミドルかローくらいのテンポだったんですよ、どっちかっていうとバラードになるかもしれないネタのストックの中にあったメロディで。
出典:『bridge』 2013年6月号
BPMの変更についての明言するのは珍しいです。最近では「望遠のマーチ」がもともとゆっくりのファンク調のデモだったと明かしています。
速いテンポの理由は「カルマ」を表現するため
<静かな時にこの速度を求めたのはどうしてだと思いますか?>
藤原 – ……それが一つの力だったんでしょうね、「カルマ」ってものを表現するための。(中略) “カルマ”ってテーマをゆったりしたバラード調で、いかにもって感じで歌うのは……どうなのかしらね?って思いますね。引用:Excite「カルマ」INTERVIEW BUMP OF CHICKEN
メロディのアイデアと歌詞のアイデアを一つにする際に、「カルマ」というテーマを表現するためにバラード調だったテンポを速くしました。
「カルマ」のBPM(=曲の速度)は2005年当時のBUMP OF CHICKENの楽曲で1番速い曲となります。
作曲時期の推定「カルマ」の練習のためにスタジオへ来ていたメンバーに「プラネタリウム」の生歌を聴かせたエピソードが2005年4月頃。そのため遅くとも2005年春先には「カルマ」は書き上げられていたことが推測される。
ナムコ『テイルズオブジアビス』主題歌
「テイルズオブジアビス」
2004年、BUMP OF CHICKENはゲーム制作会社「ナムコ」から『テイルズシリーズ』新作の主題歌オファーを受け取ります。
BUMP OF CHICKENのメンバーは『テイルズオブジアビス』の企画書に目を通し、ナムコ側と何度も打合せをしました。
最終的にバンドの鳴らしたい音楽とゲームの方向が同じだということでタイアップを引き受けることになります。『ユグドラシル』をリリースして、全国ツアー「MY PEGASUS」を開催している頃の話です。
「カルマ」PV
撮影日 | 2005年11月24日 |
撮影者 | 番場秀一 |
ロケ地 | 都内スタジオ |
「カルマ」のPVは11月24日に撮影されました。鏡の世界のような分身をいくつも撮るため、撮影は翌日朝までに終わったと高橋日記には記載されています。
「カルマ」ライブ演奏記録
演奏回数 | 130回 (リリース後221公演のうち) |
演奏頻度 | ★★★★★ |
初披露 | 2006年1月13日「run rabbit run」ZEPP SAPPORO |
最終演奏 | 2024年4月25日「ホームシック衛星2024」東京有明アリーナ |
演奏ライブ | 2006年「run rabbit run」 2007年 夏のイベント 2008年「ホームシック衛星」 2008年「ホームシップ衛星」 2008年「ROCK IN JAPAN FESTIVSL 2008」 2011-12年「GOOD GLIDER TOUR」 2012年「GOLD GLIDER TOUR」 2013年「ベストアルバム発売記念特別ライブ」 2013年「WILLPOLIS」 2013年「RADIO CRAZY」 2014年「BUMP OF CHICKEN Live in Taiwan」 2014年「WILLPOLIS 2014」 2015年「BUMP OF CHICKEN Special Live」 2015年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」 2016年「STADIUM TOUR 2016 “BFLY”」 2019年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」 2019年「TOUR 2019 aurora ark」 2022年「TOUR 2022 Silver Jubilee」 2023年「TOUR 2023 be there」 2024年「ホームシック衛星2024」 2024年「Sphery Rendezvous」 |
「カルマ」はこれまで130公演のライブで演奏されています(2023年5月現在)。セットリスト1曲目、後半1曲目、アンコールなどライブ空間の雰囲気をガラリと変える曲として演奏されていて、ABセトリの場合は「メーデー」と対になることが多いです。
「カルマ」ライブバージョンのイントロ
「カルマ」をライブで演奏する際、原曲のイントロに入る前にプレ・イントロが演奏されます。藤原さんの弾くアルペジオと増川弘明さんのフィードバックギター、直井さんのベースが不気味に絡み合い、不気味な照明が光る演出になっています。
「カルマ」ライブ映像作品
今回の記事を読んでくださった方には、カルマのもう一つの聴き方を体験していただければ嬉しいです。