「ほんとのほんと」は23枚目のシングル「firefly」に収録されているカップリング曲です。アコースティックギター1本とベース、そしてドラム(とピアノの基層低音)という非常にシンプルなサウンドが特徴です。簡素なサウンドの中で歌われるエモーショナルな藤原さんのボーカルが魅力的です。今回は「ほんとのほんと」について紹介します。
5月 | 藤原、「firefly」を書く。その後アスティとくしまでのライブで観客に報告 |
7/10 | フジテレビ「息もできない夏」放送開始。「firefly」が主題歌に起用される |
7/14 | ツアーファイナル宮城公演。リハーサルでfireflyを演奏するもこの日の演奏は断念。 |
ツアー終了後、カップリング曲として「ほんとのほんと」を作曲&レコーディング | |
9/22 | 23rd single 「firefly」リリース |
ツアー直後にカップリング用として書いた曲
未発表だった(please) forgiveやmorning glowなどをカップリングにするアイデアもありましたが、「書けるかわからないけどスタジオに入ってみよう」という藤原さんの発案で曲作りのスタジオに入り、「ほんとのほんと」が生まれます。
藤原 – ツアー直後ですね。カップリングは、さっき言った他にあるいくつかの未発表曲のどれかにしようかなとも思っていたんですけど、やっぱり「firefly」に対するカップリングの曲作りをちゃんとしたいなと思って。
最初から”カップリング用”として作曲することは、藤原さんにとってしばしばあります。「銀河鉄道」「supernova」「good friends」などはカップリング用として作曲されました。
歌詞解釈
この曲は詞がメロディーを引っ張る形で生まれました。「本音」や「言葉」を相手に伝える時、私たちは相手を不意に傷つけてしまう、逆に自分が傷ついてしまうことがありますよね。そんな一日に何百回、何千回と繰り返される行為の中の危うさを歌っています。
藤原 – この曲で表現したかったのは、誰でも誰かを傷付ける能力をちゃんと持っているってこと。何気なく発した言葉でもしっかり誰かのことを傷付けることがある。場合によっては相手を再起不能にまで追いやることができる言葉を、誰でも放つことができるじゃないですか。それは凶器を持って歩いてるようなもので。
「凶器」という言葉がシリアスで辛辣な印象を受けますね。余談ですが「凶器」という単語で振り返って見ると10代の時に書いた曲「ナイフ」が思い浮かびました。
ナイフ / BUMP OF CHICKEN
強く望んだら 望んだ分だけ
隠したKNIFEはスルドくなるもんさ
みんな憧れた HEROみたいに
隠したKNIFEが僕を強くする PROVE YOUR SELF
ほんとのほんと / BUMP OF CHICKEN
尖った言葉が的確に 胸を貫いて 転がって冷えた
何もできないよ 震えながら 押さえつけていくのだろう
同じ「凶器」でもナイフに出てくる「KNIFE」はもっとポジティブで、人を強くするため、恐怖に立ち向かうための「武器」です。それに対して人をほんとのほんとに出てくる「尖った言葉」は再起不能にしかねない、まさしく「凶器」として描かれています。
当然、藤原さんはインタビュー時にはナイフのことは頭になかったと思いますが、15年以上もの年月が経って、藤原さんの歌詞が10代の青春ソングから人間の内面を映し出す詞へと深度を増していることがわかります。
シンプルだが緊張感のあるサウンド
この曲の基本的なサウンドは、アコースティックギターとエレキベース、ドラムのシンプルな構成になっています。
supernovaやベルといったアコースティック曲もありますが、途中でアクセントとして歪んだエレキギターを入れたり、高音のリフを入れたりしています。ほんとのほんとではほぼ小細工をしていないため、1音1音がごまかしようがない緊張感のあるサウンドを狙ったそうです。
藤原 – もっと豪勢なサウンドにしようと思えば全然できるんです。そうすることでドキドキもワクワクもするんですけど、それによって消えてしまう緊張感みたいなものもあって。この曲は、そういう緊張感を全面に押し出したアレンジをするべきだと僕は思ったんでしょうね。
音楽ナタリー – http://natalie.mu/music/pp/bumpofchicken08/page/6
升 – よく言われることですけど、シンプル=簡単ではないので。むしろ難しい。
これはアルバム「RAY」のトーチに関するインタビューでも述べていましたね。バンプの場合はシンプルなアレンジの曲ほどより多く練習をしてレコーディングに臨むことが多いです。なんだか陶芸家がシンプルな陶器を作ることに時間をかけているのと似ているなと思います。
隠れた基層低音
藤原 – あれはピアノの音をドーンと弾いて、それをずっと伸ばしてるんです。あとE-BOW(ギターエフェクター)の音も入ってますね。
唯一の小細工として、冒頭から低音のピアノが曲を通して鳴らすことにより曲に重みと、ある種の荘厳さを感じさせる曲スタートになっています。これはプロデューサーのMORさんによるアイデアだそうです。
終わりに連れて熱を帯びていく音
直井 – 前半はとにかくシンプルに抑えながら弾く感じで、後半はプラスアルファのフレーズを作って、ちょっと劇的な動きになるように表現しました。
藤原 (デモの打ち込みの段階で)同じフレーズを叩きながら、だんだん音の表情が熱を帯びていく升くんのドラムが僕の中で聴こえていて。
シンプルに始まったサウンドも、曲の後半になるにつれてダイナミックになって言います。決してエフェクターやエレキギターを重ねたりせず、アコギのピックングニュアンスやストローク、ベースの動きでその熱量の増加を表現しています。
昔のバンプだったら曲の終わりを盛り上げるためにエレキギターを足したりしていたと思います。やはり「恥ずかし島」でアコースティック曲を表現する経験値を増したからこそできる技術なのかもしれませんね。
仮歌のボーカルテイクを採用している
楽器がシンプルな構成なので、曲のサウンドに対する歌の比重も必然的に大きくなります。ほんとのほんとのボーカルは、掠れ気味の声と曲の後半に連れて感情的になる歌声が実に素晴らしいと思います。
CDに収録されているボーカルは、もともとプリプロ用に録られたテイクでした。本番レコーディングで歌入れをし直したものの、この仮歌を上回るものではないとメンバーとスタッフで判断したため、仮歌のテイクをCDに入れることにします。
藤原 – 実はプリプロのテイクをそのまま使っているんですよ。本チャンの歌入れもしたんですけど、プリプロのときのボーカルのほうが良くて。
藤原さん曰く”どんな時も手を抜かないで作業していた結果”と評しています。
ライブ演奏
この曲はまだライブでは演奏されたことがありません。もし演奏するとしたら増川さんにギターを任せて、歌に専念する藤原さんというembraceのような構成になるのではないでしょうか。
せっかく楽器隊が3人だけの曲なので、それこそ「恥ずかし島」での演奏を聞いてみたいですね。「恥ずかし島」ではホリデイに銀河鉄道、睡眠時間、歩く幽霊といったカップリング曲が演奏されることが多いようです。いつかライブで披露されるといいですね。
以上、簡単ですがほんとのほんとについて紹介しました。