6th Album 『COSMONAUT』

BUMP OF CHICKEN「宇宙飛行士への手紙」歌詞の意味と制作エピソード

6th Album 『COSMONAUT』
シングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」

「宇宙飛行士への手紙」はBUMP OF CHICKENが2010年に発表したシングル曲です。

なかなか曲を書くことができなかったボーカル・藤原基央さんを見かねて、プロデューサー・MOR氏がお題を与えて作曲したシリーズの1曲です。

「宇宙飛行士への手紙」という曲名は別のアルバムにつけられる予定だった言葉だといいます。藤原さんはなぜこのタイトルをつけたのか、「宇宙飛行士への手紙」の歌詞の意味、制作エピソードについて解説します。



「宇宙飛行士への手紙」基本情報

作詞・作曲 藤原基央
編曲 BUMP OF CHICKEN & MOR
作曲時期 2009年6月
録音時期 2009年12月(リズム録り)〜2010年
収録作品 2010年10月14日 シングル「宇宙飛行士への手紙/モーターサイクル」
2010年12月10日 アルバム「COSMONAUT」
2013年7月3日 ベストアルバム「BUMP OF CHICKEN BEST Ⅱ[2005 – 2010]」
ライブ初披露 2011年12月5日「BUMP OF CHICKEN TOUR 2011-2012 “GOOD GLIDER TOUR”」渋谷AX公演

シングル「宇宙飛行士への手紙/モーターサイクル」収録曲

シングル「宇宙飛行士への手紙」(2010年10月13日リリース) 
M-01「宇宙飛行士への手紙」
M-02「モーターサイクル
M-03「good friends

 




「宇宙飛行士への手紙」作曲エピソード

「宇宙飛行士への手紙」は藤原さんが曲作りのスランプに陥った際、プロデューサーから与えられたテーマを題材をもとに生まれた楽曲です。

「四つ打ちのリズム」をテーマに書いた曲

2009年6月、BUMP OF CHICKENのプロデューサー・MOR(森徹也)氏は藤原さんへ「四つ打ちのリズム」という作曲テーマを出します。

藤原 – これは、プロデューサーに「4つ打ちの曲を書いてくれ」というふうに言われて、それがきっかけです。

引用元:「What’s IN!?」2010年11月号




四つ打ちのリズムとはダンスミュージックに主に使われるリズムで、ミドルテンポの1小節の中に等間隔にバスドラムがドンドンドンドンと4回鳴るのが特徴です。

藤原さんは自分のイメージする四つ打ちの曲のBPM(テンポ)を設定してギターを弾きながらコードとメロディを当てていきます。

裏のテーマ「コード縛り」

藤原さんは四つ打ちの新曲を作るにあたり、さらにコード進行の縛りのルールを課しました。

藤原 – で、書いているうちにコード縛りをしてみようと思って、(中略)「宇宙飛行士への手紙」はずっと同じコード進行、Aメロもね。で、Bメロでそれ(拍)が倍になるっていう。で、サビで1回だけフック入れとくとか

引用元:「What’s IN!?」2010年11月号

「宇宙飛行士への手紙」はAメロ、Bメロ、サビが同じコード進行が使われています。拍の長さを変えたり、アクセントとしてサビの2小節を変えるなどしていますが概ね同じコードです。

「宇宙飛行士への手紙」Aメロ、Bメロ、サビで使用される3つのコード進行(半音下げチューニング)

BUMP OF CHICKENの楽曲において、藤原さんは「コード縛り」(同じコードを使用する制約)や「ABパターン」(Aメロとサビだけの曲)といった音楽理論上の制約を課すことがあります。

テーマ作曲時代とは

2009年4月、藤原さんは「魔法の料理〜君から君へ」「モーターサイクル」を自宅で作曲しますが、それ以降また書けない日々が続きました。

2009年6月頃、その様子を見かねたプロデューサー・MOR(森徹也)氏は、藤原さんにいくつかのテーマを与えて、藤原さんはそのテーマに応える形で曲を作る共同作業を始めます。

「COSMONAUT」期における藤原基央の作曲手法の推移

“クリスマスソング”のテーマから「Merry Christmas」、”シングル曲”のテーマから「分別奮闘記」「R.I.P.」が生まれます。そして”四つ打ちリズム”というテーマから「宇宙飛行士への手紙」が生まれました。

テーマ作曲で6曲書いた後、テーマなしでつくるスタジオ作曲の時代が始まります。これにより作曲ペースが格段に上がり、BUMP OF CHICKEN 6枚目のアルバム「COSMONAUT」収録曲が生まれていきます。

 

「宇宙飛行士への手紙」作詞エピソード

「宇宙飛行士への手紙」の歌詞は、作曲作業するなかで同時に生まれてきたといいます。

藤原 – ギターを持ってコードを弾きながら歌っていたら、メロディと一緒に歌詞もスラスラ出てきたんです。最近はそうやって曲と歌詞がほぼ同時にできることが多くて

引用元:「Natalie」

藤原さんの曲作りの順番は、インディーズ〜メジャー初期までは曲先(曲・メロディ・演奏を先に作ってから歌詞を書く)が多く、それ以降は別々の歌詞とメロディのアイデアを組み合わせたり、歌詞から作るなどが増えてきました。

藤原さんはかつてオケ(演奏)から作ったロストマン」の作詞に9ヶ月かかったことがトラウマとなり、それ以降はメロディと同時に歌詞を書く方法が増えてきたといいます。

 

過去の記憶を基軸にして「今」や「未来」を描く

「宇宙飛行士への手紙」の歌詞は、藤原さんが小さい頃に体験した記憶をもとに描かれています。

「宇宙飛行士への手紙」0:17〜

匂いもカラーで思い出せる
今が未来だった頃の事

引用元:「宇宙飛行士への手紙」(2010年)/ 作詞作曲 藤原基央

「昔」「過去」という直接的な言葉を使用せず、《今が未来だった頃》= 過去として情景を説明しています。

「宇宙飛行士への手紙」0:39〜

蜘蛛の巣みたいな稲妻が
空を粉々に砕いて散った

引用元:「宇宙飛行士への手紙」(2010年)/ 作詞作曲 藤原基央

冒頭の《蜘蛛の巣みたいな稲妻》は藤原さんが幼少期に姉と買い物に出た時に見た光景でした。曲作りをしているときに前触れもなく思い出したことで歌詞になったといいます。

 

“イマ”を歌うバンド・BUMP OF CHICKEN

MV「天体観測」スクリーンショット

藤原さんはもともと過去を歌う表現や、過去から今を見るような表現は好きではありませんでした。

藤原 – 「R.I.P.」や「魔法の料理 ~君から君へ~」、この「宇宙飛行士への手紙」のように自分の過去の記憶を基軸にして、今や未来を描いていくような表現方法は本来あまり好きじゃなかった。

引用元:「音楽ナタリー」2010年10月

BUMP OF CHICKENは常に「イマ」を歌ってきたバンドです。藤原さんはBUMP OF CHICKENというバンドを《“天体観測”でも歌ってるけど、今現在という、その瞬間を大切にしてるバンド》と自評しています。

大ヒット曲「天体観測」やBUMP OF CHICKENの根元をなす楽曲「ガラスのブルース」でも「イマ」をかけがえのないものとする藤原さんの哲学が読み取れます。

「天体観測」3:52〜

「イマ」という ほうき星
君と二人 追いかけている

引用元:「天体観測」(2001年)/ 作詞作曲 藤原基央

 「ガラスのブルース」3:25〜

僕はいつも唄を歌うよ
僕は今を叫ぶよ

引用元:「ガラスのブルース」(1999年)/ 作詞作曲 藤原基央

藤原さんは作詞にもいくつかルール・制約を設定しており、そのひとつが過去の描写を避けるというものでした。しかし「魔法の料理〜君から君へ〜」「宇宙飛行士への手紙」「R.I.P」はその制限を突き破るほどの「書きたいものを書く」という強い衝動が起こったといいます

30歳を迎えたBUMP OF CHICKENの再確認

「bridge」2012年12月号

なぜ藤原さんは自分のルールを覆すような強い衝動に駆られたのでしょうか。

そこには藤原さんが30歳になったとき、BUMP OF CHICKENのメンバー全員でご飯を食べながら互いの考えの再確認を行なったことが影響しています。

藤原 – みんな同じようなことを考えているんだなって確認できたのはすごく大きかったです。そういう確認ができたこともあって、曲を作るときのタガが外れたんだと思います。メンバー全員が同じように思っていることなら、このバンドが歌って、鳴らす曲として何の問題もないじゃないですか。

引用元:引用元:「音楽ナタリー」2010年10月




人生の半分以上を一緒に過ごしているメンバーとの再確認が藤原さんの作詞のリミッターを外します。このようにして「宇宙飛行士への手紙」は作詞されました。

 

「宇宙飛行士への手紙」のタイトルの由来

曲名の「宇宙飛行士への手紙」という言葉は藤原さんが『orbital period』の時から持っていたフレーズです。

もともとはBUMP OF CHICKEN初のカップリング・アルバム(『present from you』)のタイトルの候補として挙がったり、次のアルバム名(『COSMONAUT』)に使う予定でした。

しかし今回の「四つ打ちの曲」が完成した際に「宇宙飛行士への手紙」を曲名とし名付けることにします。

藤原 – 「宇宙飛行士への手紙」という頭の中にずっとしまってあった言葉がポロッと出てきて。「もう、これしかないわ」と思ったのが「宇宙飛行士への手紙」という曲になったんです。

引用元:

実際、「宇宙飛行士への手紙」の歌詞の中に《宇宙飛行士への手紙》というキーワードや、類似する言葉も登場しません。インスピレーション先行で付けられたタイトルであることがわかります。

 

「宇宙飛行士への手紙」制作エピソード

「宇宙飛行士への手紙」を作曲後、藤原さんはまずアコースティック・ギターだけのデモテープを作成します。ギターだけでコード、リズム、フレーズを表現する音源でしたが、リズムやイントロのフレーズなどは完成音源で再現されています。

藤原の弾くギターのリズムが核になる

「宇宙飛行士への手紙」のデモテープを録った際、藤原さんは無意識にギターでアクセントの強弱をつけていました。そのギターの強弱が升さんが考えるリズムパターンに影響を与え、楽曲のグルーヴの中心となっています

歌詞に寄り添ったドラムの音録り

BUMP OF CHICKEN ドラム

「宇宙飛行士への手紙」のテーマ「4つ打ち」を表現するために、ドラムス・升秀夫さんはハイハットのリズム(ハットワーク)で四つ打ちを表現します。

藤原 – 実は結構僕ら好きなんで、4つでキックが入っているものは多かったんですけど。だからキックっていうよりハットワークなのかな(中略)ダンスミュージックによくある「ッズッチー/ッズッチー」っていう。

引用元:詳細不明ラジオ interviewer 鮎貝健

そしてこの曲は他のBUMP OF CHICKENの楽曲と異なる特殊な方法でレコーディングします・

升 – キックならキックだけで1曲通して叩いて、ハットはハットで1曲通して叩いてってやり方をして録ったの

引用元:「MUSICA」2010年10月号

升さんはキック(バスドラム)、ハイハット、スネアドラムを別々に録音し、最終的にミックスしました。その特殊な方法の理由として、ドラムス・升秀夫さんは《そういう音が録りたかった》《歌詞に寄っていった》と説明しています。

「ユグドラシル」制作期に完遂する「曲が求める理想の音を鳴らす」というBUMP OF CHICKENの基本原理が一貫して継続していることが伝わります。

直井由文ベース使用機材:1974年製 Rickenbacker 3000

ベーシスト・直井由文(チャマ)さんは1974年製 Rickenbacker 3000を「宇宙飛行士への手紙」のレコーディングで使用しました。これは他の楽曲でほぼ使用されていない非常にレアなエレキベースです。

「宇宙飛行士への手紙」のレコーディングで使用されたRickenbacker 3000(黒)。かつて「ひとりごと」の制作で使用を検討されたが機材調整が必要になり実現していなかった。

直井さん所有のリッケンバッカー製ベースは非常に繊細で本番RECに使用できずに断念したことがあります。この機材を使用した背景には、直井さんが「宇宙飛行士への手紙」を初めて聴いた時に感じたUKロック、特にマンチェスターのイメージがありました。

直井 – この曲を聴いた時にマンチェスター(のバンド)の匂いを感じて・・・ストーン・ローゼズとかハッピー・マンデーズとかのダンスロックサウンドを感じたの。

引用元:「QUIP MAGAZINE」

直井さんはBUMP OF CHICKENの楽曲にベースラインをつけるときに曲のインスピレーションから着想を得ることがあります。

「ホリデイ」では”カリフォルニア”、「天体観測」では”テクノ”、「Stage of the ground」で”ジャズ”をイメージしてベースのサウンド作りを考えてきました。「宇宙飛行士への手紙」でも直感型の才能が健在であることが読み取れます。

インタビューで一致しない制作時期

余談ですが、「宇宙飛行士への手紙」の制作時期はインタビューによって回答が異なり錯綜しています。いくつかのインタビューを総合すると以下になります。

  • 2009年8月頃、「R.I.P.」制作と同時期にドラムのアプローチを検討する
  • 2009年10月頃、藤原さんが「宇宙飛行士への手紙」をメンバーに届ける
  • 2009年12月頃、「宇宙飛行士への手紙」のリズム録りを行う
  • 2010年以降、リズム録り以外の作業を行う

プリプロと本番RECとが混在していると思いますが、デモ音源をメンバーに届けたタイミングが矛盾しており謎が残ります。1つ確かなことは「宇宙飛行士への手紙」が段階的に制作されたことがわかります。

「宇宙飛行士への手紙」ジャケット

シングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」

「宇宙飛行士への手紙」のジャケットはプロデューサー・MOR氏がアイデアを出し、インディーズからBUMP OF CHICKENのデザインを手がけるタイクーン・グラフィックスが制作しました。(「PONTSUKA!!」2010年9月26日より)

「宇宙飛行士への手紙」MV

監督 番場秀一

「宇宙飛行士への手紙」のPVはメンバーが出演しない映像となっています。

アルエ」「バイバイサンキュー」「ギルド」「真っ赤な空を見ただろうか」「You were here」「飴玉の唄」は、過去の写真やメンバーが出演している映像を編集して作成したBUMP OF CHICKENのMVは過去にもあります。「宇宙飛行士への手紙」はメンバーが出演すらしない唯一のシングル曲です。

しかしシナリオ確認など企画段階ではBUMP OF CHICKENのメンバーがチェックしており、ドラムス・升秀夫さんは「むしろ一番話し合った曲」と話しています。そのためメンバーが出演しないも関わらず、非常に凝ったストーリー性のある映像になっています。

「宇宙飛行士への手紙」ライブ演奏記録

演奏回数 76回  
初披露 2011年12月5日「BUMP OF CHICKEN TOUR 2011-2012 “GOOD GLIDER TOUR”」渋谷AX公演
演奏ツアー
2011-2012年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2011-2012 “GOOD GLIDER TOUR”」*全公演演奏
2012年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2012 “GOLD GLIDER TOUR”」*全公演演奏
2013年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2013 “WILLPOLIS”
2014年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2014 “WILLPOLIS 2014”
2017-2018年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 “PATHFINDER”
2022年「BUMP OF CHICKEN LIVE Silver Jubilee
2023年「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 “be there”




BUMP OF CHICKENのライブで「宇宙飛行士への手紙」の演奏回数は76回です。アルバム「COSMONAUT」のレコ発全国ツアー2本で全公演演奏されています。

ファイナル公演で予定にない即興演奏

「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 “be there”」ファイナル公演(2023年5月28日さいたまスーパーアリーナ)で、ダブルアンコールとして「宇宙飛行士への手紙」が即興演奏されています

藤原さんが終わりの挨拶中に感情が高まり、ひとりでエレキギターで弾き語りから始まり、3人が合流していき同期SEなしのバンドサウンドとして演奏しました。

升 – 藤くんも別に(曲を)予想してない。

増川 – 俺ね、「宇宙飛行士への手紙」超びっくりして。最初に思い出しながら何とか何とかやってたんだけど、さらに拍手を送りたいのが福ちゃん(BUMP OF CHICKENのローディを長年担当する福田氏)が音を立ててくれて。

引用元:Bay FM 「PONTSUKA!!」(2023年8月19日 ON AIR)

直井さんがコーラスをしていることや、細かいキメやギターフレーズ、裏方(テックさん)のエフェクターの切替がスムーズに行われていることから、楽屋などで事前に練習をしていたのではないかと感じましたが、ポンツカでは全く予想していなかったといいます。

 

「宇宙飛行士への手紙」ライブ映像作品

映像作品「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012
映像作品「BUMP OF CHICKEN WILLPOLIS 2014
映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER SAITAMA SUPER ARENA
 シングル「SOUVENIR」初回限定特典映像「BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe Other Selection
映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there at SAITAMA SUPER ARENA

「宇宙飛行士への手紙」のライブ映像は5作品に収録されています。ライブではギタリスト・増川弘明さんによるディレイをかけた稲妻のようなギターソロが弾かれており、ライブ映えする楽曲に進化していまうs。

以上、BUMP OF CHICKEN「宇宙飛行士への手紙」の歌詞の意味と制作エピソードについて解説しました。