7th Album『RAY』

BUMP OF CHICKEN「firefly」歌詞の意味と制作エピソード

7th Album『RAY』
シングル「firefly」

「firefly」はBUMP OF CHICKENが2012年に発表したシングル曲です。

タイトルの「firefly」とは英語で「蛍(ホタル)」を意味し、全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2012 “GOLD GLIDER”」の開催期間中に作曲されました。

藤原さんはなぜ「firefly」を全国ツアー中に書いたのか、「firefly」に込めた思いは何か。この記事では「firefly」の歌詞の意味と制作エピソードについて紹介します。



「firefly」基本情報

作詞・作曲 藤原基央
編曲 BUMP OF CHICKEN & MOR
作曲時期 2012年5月16日頃
録音時期 2012年6月
収録作品 2012年9月12日 シングル「firefly」(C/W「ほんとのほんと」)
2014年3月12日 アルバム「RAY」
ライブ初披露 2013年8月3日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」

 

「firefly」の意味

「firefly」とは英語で「蛍(ホタル)」を意味し、藤原さんは「firefly」の歌詞を《蛍みいな欲望の歌》と表現しています。一体どのようにしてこの曲が生まれたか、解説します。

「firefly」作曲エピソード

「firefly」は、BUMP OF CHICKENの楽曲としては珍しく、全国ツアーでライブ会場を回っている間に作曲された曲です。

曲が書けなくなるのが怖かった藤原基央

BUMP OF CHICKENの作詞・作曲を手掛ける藤原さんは、かねてから全国ツアー期間中は目の前の演奏に全力集中することを優先し、作曲するという選択肢を持っていませんでした。

2008年1月〜7月、長期間となる2本の全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2008 “ホームシック衛星”」「BUMP OF CHICKEN TOUR 2008 “ホームシップ衛星”」の後、しばらく曲が書けなかったことが嫌な記憶として残っていたといいます。

「GOLD GLIDER TOUR」期間中に作曲するという目標

2012年全国ツアー「GOLD GLIDER TOUR」の様子(画像引用元:tower.jp

2011年12月〜2012年7月、BUMP OF CHICKENは約8ヶ月間を掛けて2本の全国ツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2011-2012 “GOOD GLIDER TOUR”」「BUMP OF CHICKEN TOUR 2012 “GOLD GLIDER TOUR”」を開催します。

開催前、藤原さんは《ツアー中に曲を書く》という目標を立てました。その動機は、曲が書けなくなるのが怖かったという理由と、BUMP OF CHICKENのメンバーにサプライズがしたかったといいます。

藤原-  今まではそれ(曲を書くこと)を試そうともしてなかったから、今回はやってみようと思ったんです。それで、ツアー中に曲を書くという目標を立てて。書ける、書けないは別にして、スタッフにお願いして、とにかくツアーの合間にスタジオに入ってみようと。

出典:natalie music



「宇宙飛行士への手紙」「R.I.P.」の頃からテーマをもらってスタジオで作曲をするようになった藤原さん。曲のテーマを与えられなくてもスタジオ作曲が習慣化されるようになります。

「firefly」作曲をライブMCでサプライズ報告

藤原さんは「GOLD GLIDER TOUR」徳島公演(2012年5月19日)の数日前に「firefly」を書き上げます。

「firefly」の新曲完成報告がされたアスティとくしま(徳島県徳島市)。2012年 GOLD GLIER TOUR がバンド初の徳島公演となった。

数日後に迎えたバンド初となる徳島公演のMCで、藤原さんはサプライズ報告します。

藤原 – 実は3日ぐらい前に曲が書けたんです。まだメンバーにも聴かせてないんですよ。

2012年5月19日「GOLD GLIDER TOUR 2012」 アスティとくしま公演 MC

新曲完成報告に会場は湧き上がります。ツアー中に曲を書きあげる、当時のBUMP OF CHICKENの活動において画期的な出来事でした。

「firefly」歌詞の意味

「firefly」の歌詞に藤原さんはどのような意味を「firefly」に込めた、以下で解説します。

「COSMONAUT」の頃から書きたかった想いを綴る

「firefly」の歌詞は《その時に歌いたかった想いや言葉を歌詞にした》と藤原さんは述べています。その”歌いたかった思い”は、前作アルバム「COSMONAUT」(制作期間:2008〜2010年)の頃に遡ります。

アルバム「COSMONAUT」

藤原 – この曲の歌詞に書いたようなことを歌いたいという思いは「COSMONAUT」の頃からあって。それがドーンと出てきた感じです。その言葉がコードを呼んでっていう。

引用元:「音楽ナタリー



言葉がメロディを呼ぶ、コードを呼ぶというのはカップリング曲「ほんとのほんと」の作曲エピソードでも同様に話しており、当時の藤原さんの作曲手法を窺わせます。

「firefly」とは”蛍みたいな欲望の歌”

藤原さんが語る”伝えたかった想い”、すなわち「firefly」の歌詞解釈について次のように語ります。

藤原 –  “蛍みたいな欲望”の歌、それ以上でもそれ以下でもないと僕は思っているから、歌詞の捉え方は曲を聴いてくれる人それぞれであってほしいと思うんですけど。

《”蛍みたいな欲望”の歌、それ以上でもそれ以下でもない》と、藤原さんは端的かつ余計な情報を削ぎ落とした表現をしています。

蛍をイメージしたのジャケット

付け加えるように、藤原さんは「蛍みたいな欲望」とは、「夢」の比喩表現だと明かしています。「夢」は詩人・藤原基央にとって重要な主題のひとつであり、「オンリーロンリーグローリー」「プラネタリウム」では「光」と比喩されてきました。

歌詞解釈は聴き手の解釈に委ねると前提にした上で、藤原さんは「firefly」の中で《夢を諦めなければいけなかったこと》について触れています。

firefly  2:36〜
一人だけの痛みに耐えて
壊れてもちゃんと立って

諦めたこと 黄金の覚悟

引用元:firefly / 藤原基央 (2012年)

藤原 – 欲望から生まれた大切な夢を、どうしても諦めなければいけなかった人たちがいる。(中略)それでも勇気を出して諦めることは、歌詞には「黄金の覚悟」と書いていますけど、それはすごく輝きのある行為で。

つまり、夢を叶えるだけではなく、夢を勇気を持って諦めることに対しても賞賛をし、それを「黄金の覚悟」と表現しています。

藤原基央が持つ「夢」の哲学

多くの記事で触れてきましたが、藤原さんは「夢」という概念に対して、非常にシビアな哲学を持っています。「続・くだらない唄」「夢の飼い主」「プラネタリウム」の記事で、藤原さんの「夢」に対する厳しい考え方を紹介してきました。

2004年のカップリング曲「夢の飼い主」のインタビューでは以下のように語っています。

ROCKIN’ON JAPAN 2004年12月号

藤原 -(夢は)もうギラギラしててやばいんです、ほんと。生半可な覚悟で見たら目がつぶれるぐらいの輝きなんです。で、それを見るんです、自分の意志で。

引用元:「ROCKIN’ ON JAPAN」2004年12月号 

藤原さんにとって、「夢」とは語って終わりにするものではなく、強い意志と覚悟を持って掴むものであるというニュアンスを述べています。

「firefly」に登場する”金色”のモチーフ

firefly  1:11〜
分かれ道も沢山あって 暗闇に囲まれて
微かな金色に 必死で付いていった

引用元:firefly / 藤原基央 (2012年)

「firefly」には「金色」「黄金」といった色彩のモチーフが登場します。これは「蛍」の放つ光であると同時に、全国ツアー「GOLD GLIDER TOUR」のダブルミーニングであると考えられます。

BUMP OF CHICKENにはCD未収録の「GOLD」というインストゥルメンタル曲が存在します(ライブ映像作品「BUMP OF CHICKEN TOUR 2012 “GOLD GLIDER TOUR”」で確認できます)。「GOLD」はライブのオープニングSEとして、CG映像と一緒に流れた楽曲で、もちろん藤原さんが全て演奏し、タイトルを付けています。

2012年頃、藤原さんの中で「金色」「黄金」というモチーフが流行していたことがわかります。

BUMP OF CHICKENとホタル

BUMP OF CHICKENのメンバー全員でホタルを見たことがあります。

2003年5月29日、全国ツアー「NINJA PORKING」京都公演前日に京都に到着し、地元に詳しいスタッフに連れられてメンバーと一緒に用水路に行きホタルを見たことが印象に残っていると言います。

藤原 – スタッフから「ホタルすごいいるから、ちょっとおいでよ」って言われてみんなでいきましたよね。すごい綺麗で、すごい心に残っています。いい思い出です。

引用元:「PONTSUKA!!」2012年7月22日

「firefly」制作エピソード

2012年6月、「firefly」はツアーの合間を縫ってレコーディングが行われます。これは7月10日に放送するフジテレビ系ドラマ「息もできない夏」のタイアップが決まっていたためです。

ライブの打ち上げで「firefly」の制作話をメンバー同士でするようになり、増川さんはその様子を《ミュージシャンっぽい》と表現しています。それほど新鮮なプロセスだったことがわかります。

「COSMONAUT」期のアプローチを採用したドラム

アルバム「COSMONAUT」

ドラムはた2拍目と4拍目にアクセントを置いたリズムを意識し、ひとつ前のアルバム「COSMONAUT」期に傾倒したパターンだと言います。藤原さんとMOR氏が打ち込みでリズムのデモトラックを制作し、AメロのリムショットもMOR氏のアイデアだと語っています。

升 – 打ち込みのドラムが入ったデモの段階から、細かい部分までいろんなアプローチが施されていて。(中略)デモのイメージを活かしながら、ダイナミックな曲にすることができた満足感があります。

引用元:「音楽ナタリー」Interview

それをドラムス・升秀夫さんがコピー、独自に解釈して演奏します。同様にデモ段階で藤原さんのアイデアが入ったベースラインをコピーし、ベーシスト・直井由文さんがレコーディングをしました。

リードの役割を担うイントロのギターフレーズ

イントロのギターフレーズは、Bm7とGadd9のコードを分解してアルペジオが作られました。

藤原 – アルペジオなんだけど、リードとしての役割を担うような、そういうフレーズが欲しいなと思って。コード進行がこのフレーズを生んだところがありますね。

同様にコードを分解したアルペジオ・フレーズとして「くだらない唄」「ギルド」「同じドアをくぐれたら」「small world」などがあります。藤原さんはギタリストとしてアルペジオをフレージングする創作能力に秀でています。

「GOLD GLIDER TOUR」期間中ならではのこと、そうでないこと

全国ツアー「GOLD GLIDER TOUR」4月7日幕張メッセ公演の様子 画像埋込元:music.funplus.co.jp

全国ツアー中に作曲、レコーディングとなった「firefly」の制作。藤原さんは楽曲制作の取り組みおいては特別なことはなかったと語ります。

藤原 – ツアー中だったからこうこうこうだったんです、みたいなのが驚くほどなくて

出典:「bridge」vol.73

一方で、直井さんはフィジカルなについてはいつも以上に熱量が入ったと明かしています。

直井 – ツアー中にこの曲のレコーディングをできたこともホントに幸せで。ライブのモードそのままに、前ノリな状態で録れたから。

引用元:Fanplus Music

ライブで磨かれたバンドの盤石な土台の上で鳴らされているBUMP OF CHICKENの音が「firefly」では聴くことができます。

そして「firefly」のカップリング曲として「ほんとのほんと」を新曲として制作し、9月にシングルCDとしてリリースします。

ツアー中の《作曲活動》と《制作活動》

ここで少しマニアックな話をします。BUMP OF CHICKENのメンバーが振り返るように、ツアー中の「作曲」は斬新でした。一方で「制作」にスポットライトを当てると、実は何度か行われています。

ツアー名 曲名 作曲 制作
2001年 surf porkin’ ハルジオン
彼女と星の椅子
2004年 MY PEGASUS 夢の飼い主
2008年 ホームシップ衛星 プレゼント
2012年 GOLD GLIDER TOUR 「firefly」
2013年 WILLPOLIS トーチ」「ray」「morning glow  
2014年 WILLPOLIS 2014 You were here
2016年 BFLY アリア
2016年 BFLY 「望遠のマーチ「アンサー」    
2017-18年 PATHFINDER シリウス
2023年 be there 「青の朔日」  

《作曲》と《制作》とは異なります。新曲のリハーサルや部分的なレコーディングといったBUMP OF CHICKENとしての制作活動は、2000年のメジャーデビュー以降行われてきました。

《制作》に関して、例えば「夢の飼い主」は2004年全国ツアー「MY PEGASUS」初日東京2DAYSのリハーサル中に練習をしている記録が残っています。

《作曲》という藤原さんの創作活動は「firefly」がほぼ初めてになります。「firefly」をきっかけに「You were here」「アリア」「シリウス」「青の朔日」がツアー中に作曲されています。

BUMP OF CHICKEN初のドラマ主題歌タイアップ

CX系「息もできない夏」(2012年7月〜9月放送)

「firefly」はフジテレビ系列のドラマ「息もできない夏」主題歌としてオンエアされています。初回放送日が7月10日ということもあり、ドラマではテレビ版ミックス音源を送出していました。

ドラマ「天体観測」のときは挿入歌という形でしたが、主題歌としては「firefly」がバンド初となります。

BUMP OF CHICKEN ドラマ主題歌一覧

フジテレビ系「息もできない夏」(2012年) TBS系「仰げば尊し」(2016年) TBS系「グッドワイフ」(2019年) NHK「おかえりモネ」(2021年) TBS系「西園寺さんは家事をしない」(2024年)
「firefly」
「アリア」
「Aurora」 「なないろ」 「strawberry」

「firefly」ライブ演奏記録

2013年8月3日「firefly」をライブ初披露した「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」(画像埋込元:rockinon.com

演奏回数 35回
初披露 2013年8月3日「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」
演奏ツアー 2013年「WILLPOLIS」※全公演演奏
2014年「WILLPOLIS 2014」※全公演演奏

「firefly」は2013年の夏フェスで初披露され、2014年にかけて2年連続で演奏されています。どちらも「Stage of the ground」に続く2曲目として、ライブを盛り上げる役割を担いました。

リハーサルで断念した「GOLD GLIDER TOUR」ファイナル

BUMP OF CHICKENのメンバーは「firefly」のレコーディングを済ませた後、「GOLD GLIDER TOUR」のファイナル宮城公演を控えていました。

「BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR 2012」(東京代々木第一体育館公演収録)

最新曲を聴かせたいという思いから、リハーサルでは予定にない「firefly」を演奏します。

藤原 – 最終日の仙台のリハのときにみんなで「せーの!」で合わせたんですよ(中略)正直ね、「やっちゃう!?」って気持ちに若干なったのは事実です(笑)。

しかし本番で演奏するか悩んだ末に断念することになります。勢いで未発表新曲として披露した「Spica」とは対照的な、BUMP OF CHICKENのライブ史においても珍しいエピソードです。

「firefly」ライブ映像作品

7th アルバム「RAY」(初回限定版)
(2013年8月9日「ベストアルバム発売記念ライブ」QVCマリンスタジアム公演収録)
映像作品「BUMP OF CHICKEN WILLPOLIS 2014
(2014年7月31日 TOUR FINAL 東京ドーム公演収録)

「firefly」のライブ映像は「RAY」初回限定版特典、Blu-ray「BUMP OF CHICKEN WILLPOLIS 2014」の2作品に収録されています。

以上、BUMP OF CHICKENの「firefly」の制作エピソードと歌詞の意味について解説しました。